遺言書は正しく書かないと無効になることも。遺言の方式には、普通方式と特別方式があり、普通方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類あります。その違いと安全な作成法について初心者向けに詳しく解説します。
遺言書は、自分の財産や想いについて確実に伝えるための重要な文書です。ただし、形式を誤ると無効になるリスクがあり、将来のトラブルにつながることもあります。
「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式の特徴、効力を把握し、安全に作成するためのポイントを段階的に解説します。確実に遺言書を遺すためのポイントについてもまとめたので、ぜひチェックしてみてください。
遺言書とは
遺言書とは、自分が亡くなった後に財産や想いを誰にどう託すかを記す「法的に効力を持つ文書」です。法律に則って正しく作成することで、自分の意思を相続に反映でき、家族間のトラブルを防ぐことにもつながります。
日本の民法において、遺言の方式には、普通方式と特別方式があり、普通方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類が認められています(民法第960条〜第970条)。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、文字通り「自分の手で全文を書く」遺言書です。紙とペンがあればいつでもどこでも作成でき、費用がかからない点が最大のメリットです。ただし、民法上の要件を満たしていないと、無効になるおそれがあります。
- 全文・日付・氏名はすべて自筆で記載する
- 押印(認印でも可)が必要
- 財産目録はパソコンでの作成可(その場合、各ページに署名・押印)
- 家庭裁判所での検認が必要
- 保管場所の管理は自己責任
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が作成し、公証役場に原本を保管する方式です。2名以上の証人が立ち会う必要があり、手間や費用はかかりますが、法的な確実性が最も高い遺言方法です。
全文を自分で書く必要はなく、口述内容を公証人が文章化してくれます。
- 公証人が作成、原本は公証役場に保管
- 証人2名の立ち会いが必要
- 自筆不要、口頭で伝えればOK
- 家庭裁判所での検認は不要
- 費用が発生(数万円〜数十万円)
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、「内容を他人に知られずに済む」という点が特徴です。遺言書の本文を自分で作成し、封をした状態で公証役場に持ち込み、公証人と証人2名の前で「確かに本人が作成した」ことを証明します。内容自体は公証人も確認しないため、プライバシーを守りたい場合に有効です。
ただし、他の方式と比較して利用者数が非常に少ないのが現状です。理由としては、検認が必要であることや、形式的な要件を満たしていないと無効になるリスクが高いことが挙げられます。
- 本文は自分で作成し、署名・押印
- 封をした状態で公証人・証人の前で提出
- 公証人は内容を確認しない
- 家庭裁判所での検認が必要
- 作成手続きや形式に不備があると無効になりやすい
遺言書の書き方
遺言書は、ただ思いついたことを自由に書いて良いわけではありません。法的に有効な形式で、誤解のない、実現可能な内容を記す必要があります。
初めて遺言書を書く方でもスムーズに進められるよう、準備から作成までをステップ形式で解説します。
1. 目的と遺産を把握する
まず行うべきは、遺言書を作成する目的を明確にすることです。目的の例として、次のようなケースが挙げられます。
- 特定の人に財産を多く残したい
- 家族間の争いを防ぎたい
- 相続人以外に財産を渡したい(例:内縁の配偶者や団体への寄付など)
目的がはっきりすると、どの方式で・どのような内容を・誰に向けて書くべきかが具体的になります。
次に行うのが、財産の棚卸しです。思っている以上に、相続の対象となる財産の種類は多岐にわたります。
分類 | 例 |
金融資産 | 預金・株式・投資信託・仮想通貨など |
不動産 | 自宅・土地・賃貸物件など |
動産 | 車・貴金属・美術品など |
債権・その他 | 貸付金・著作権・会員権など |
2. 作成する方式を選ぶ
日本の民法で認められている普通方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つです。これらの方式を比較しました。自分に適しているものを選んで、作成を進めましょう。
方式 | 費用 | 手軽さ | 法的信頼度 | 検認 | 特徴 |
自筆証書遺言 | 無料 | ◎ | 低い | 必要 | 手軽だが要注意 |
公正証書遺言 | 数万円〜 | ×要手続き | 非常に高い | 不要 | 確実性が高い |
秘密証書遺言 | 数千円〜 | △ | 低い | 必要 | 内容を伏せて保管可能 |
3. 実際に遺言書を作成する
方式が選べたら、実際に遺言書を作成していきます。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密自筆証書遺言それぞれの書き方を解説します。
自筆証書遺言の書き方
- タイトルと本文を書く
冒頭に遺言書と記載する - 財産と受取人を明記する
誰に何を渡すか、財産の特定をする
例)長男〇〇に、〇〇銀行〇〇支店の預金全額を相続させるなど - 付言事項(任意)を書く
家族へのメッセージや経緯の説明を自由に書く - 日付・氏名・押印をする
日付は「〇年〇月〇日」と明記
氏名を自筆で記入
印鑑を押す(原則認印でもOK。実印が望ましい) - 保管して確認する
自宅保管の場合は家族に保管場所を知らせる
法務局に預ける自筆証書遺言書保管制度を使えば検認不要
公正証書遺言の手順
- 財産と希望内容の整理
誰に何を渡すかを文書にまとめておく
不動産は登記事項証明書、金融資産は通帳コピーが必要 - 証人2名の確保
親族や受取人は不可
有料で紹介を受けることも可能(公証役場に相談) - 公証役場へ事前相談・予約
口述する内容をメモにまとめておくとスムーズ - 当日作成・署名押印
公証人が内容を確認・作成し、本人と証人が署名押印
原本は公証役場が保管し、正本・謄本が交付される
秘密証書遺言の流れ
- 遺言書の作成(手書きでもパソコンでもOK)
内容は自由だが、必ず署名・押印が必要
用紙はA4程度、文章形式でOK - 封筒に入れて封印(遺言者の印鑑で)
- 公証役場での申述と証人立会い
「自分が作成した遺言書である」と宣言
公証人と証人が存在を証明 - 表紙に証明書を記載してもらう
遺言書が無効にならないための3つのポイント
遺言書は、ただ作成すればいいというものではありません。書き方のミスや見落としが原因で無効になったり、相続トラブルが発生したりするリスクもあります。特に注意すべきポイントを解説します。
1. 遺言書が無効になる要因を確認する
遺言書が無効になる主な要因は次の通りです。
書式要件の不備 | 遺言書は法律で定められた形式を満たして作成する必要があります。 |
書き間違いの放置 | 訂正方法が間違っていると、遺言書の内容が不明瞭になります。正しい訂正方法を実施する、もしくは書き直しましょう。 |
記載内容が曖昧 | 誰にどの資産を渡すのかを特定できないと実行が困難になったり、争いのもとになったりします。誰が読んでも同じ解釈になるよう曖昧な表現は避けましょう。 |
遺留分や特別受益、寄与分を考慮しない分配 | 法定相続人には遺留分と呼ばれる最低限の取り分が保障されています。遺留分を無視した内容は、相続人から遺留分侵害額請求を受けるおそれがあります。 |
2. 定期的に内容を見直す
結婚・離婚・子どもの誕生・養子縁組など、人生の大きな節目があった場合は、遺言書の内容を必ず見直しましょう。状況が変わったまま放置すると、意図しない相続結果となるおそれがあります。
見直しをする際には、新たに遺言書を作成するか、既存の遺言を取り消す手続きが必要です。なお、新しい遺言書を作成した場合、原則として日付が新しい遺言の内容が優先されます。
【参考】
民法1023条
3. 二次相続や事業承継の視点も考慮する
遺言書を作成する際は、親から配偶者や子どもへの一次相続だけでなく、配偶者から子どもへの二次相続も視野に入れましょう。一次相続で全財産を配偶者に集中させてしまうと、その配偶者の死後に子どもが受け取る二次相続で、大きな相続税負担が発生する場合があります。
また、家業や会社を継ぐ場合には、株式の承継や事業承継計画を踏まえた内容にするのが重要です。特に遺産額が高額なケースや事業を含む相続がある場合は、早い段階で専門家と相談し、相続税対策や円滑な事業承継が可能な遺言内容にすることをおすすめします。
確実に遺言書を遺すためには専門家を活用する
遺言書の作成は一見シンプルに思えます。しかし、実際は法律や税務の専門知識が必要な場面が多くあります。専門家に相談・依頼することで、次のようなメリットが得られます。
遺言書の無効リスクを回避できる
遺言書には、法律で定められた形式や手続きのルールがあります。専門家に依頼すれば、最新の法令や判例に基づいて、文面の内容だけでなく書式面まで厳密にチェックしてもらえます。
たとえば、自筆証書遺言では全文の自筆、押印の位置、日付の書き方など、細かな形式的ミスが命取りになることも。こうした点も含めて確認してもらえるため、遺言書が無効になるリスクを大幅に軽減できます。
相続人間の公平性を配慮できる
遺留分、特別受益、寄与分など、相続に関する法律的な考慮点は非常に複雑です。専門家に相談することで、各相続人の立場や権利を考慮した、バランスの取れた分割内容を提案してもらえます。
これにより、不公平感を理由とする遺留分侵害額請求やトラブルの発生を防ぎやすくなります。
相続税負担を軽減できる
税理士のような専門家が関与することで、相続税対策の視点からも最適な遺言を作成できます。遺言の内容と税金の対策を一体的に検討できるのは、大きなメリットです。
たとえば、次のような対応が可能です。
- 配偶者の税額軽減の適用を見据えた配分
- 小規模宅地等の特例が適用される分け方
- 生命保険や生前贈与との最適なバランス調整
遺言執行者としての信頼が確保できる
遺言の内容が実際に執行される際には、遺言執行者が財産の管理・分配を担当します。この役割を専門家に任せることで、法律や税務処理がスムーズに進み、感情的な対立の回避にもつながります。
特に次のようなケースでは、専門家を遺言執行者にするのが効果的です。
- 相続財産が高額または複雑な場合
- 相続人間の関係性が複雑である場合
- 法律・税務の専門的な判断が必要な場合
遺言書の書き方で失敗しないためのポイント
遺言書は、大切な財産や想いを確実に次世代に伝えるための重要な書類です。しかし、法律で定められた形式や内容のルールを守らなければ、無効になるリスクや相続トラブルを招く可能性があります。
日本の民法では、遺言の普通方式として「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類が認められており、それぞれに異なる特徴と注意点があります。
作成した遺言書が無効になったり、意図しない結果を招いたりしないよう、結婚・離婚・子どもの誕生などのライフイベントごとに見直しをしましょう。あわせて、遺留分や相続税対策など法律・税務面も意識した内容にすることが大切です。
さらに、法務局での保管制度を活用したり、弁護士や税理士など専門家に相談・依頼したりすることで、より安全で確実な遺言書の作成が可能になります。
初めて遺言書を作る方も、すでに作成済みの方も、これらのポイントを押さえて、将来の相続トラブルを未然に防ぐための準備を進めていきましょう。