相続トラブルの約8割は遺言書の形式不備が原因ともいわれます。この記事では遺言書の概要や記載内容、遺言者本人が自筆で書く場合のメリットデメリットや法的要件、書き方、ポイントなどを解説し、おもな6つの例文および6つの注意点をご紹介します。
「家族へ自筆で遺言を残したいけれど、どうすれば間違いなく書ける?」
一定の年齢になると、このような疑問をお持ちの方や親族から相談されるケースは少なからずあるでしょう。
自筆証書遺言は費用ゼロで手軽に作れるのがメリットですが、法的要件を外すと想いを込めて作成しても無効になり、かえって家族間の紛争を招きかねません。
本記事では、遺言の基礎から自筆証書遺言の要件・例文・注意点などを解説しており、お読みいただければ「何から着手すべきか」が明確になります。
遺言書とは?
遺言書とは、遺言者が自分の死後に財産分配・遺贈・遺留分調整・遺言執行など財産の分配方法や家族への希望を法的に示して、そのとおりに実行してもらうよう促す文書です。
遺言書は民法960条以下で形式と効力を厳格に規定しており、要件を満たさない内容の遺言書は無効になってしまうため注意が必要です。
不動産や預貯金などの遺産分割をめぐる相続トラブルの大半は「遺言書が残されていなかった」「遺言書はあるが形式不備で無効になった」などが原因だといわれます。
3種類の遺言書形式
遺言書の形式には以下の3つがあります。
<自筆証書遺言>
遺言書の全文を本人が手書きで作成します。
2020年7月10日から新たに法務局で「自筆証書遺言書保管制度」がはじまっており、法務局で保管すれば家庭裁判所が行う遺言書の検認は不要で、費用は1件3,900円です。
自筆証書遺言は遺言者の手作りであり作成費用がかからないため、費用を抑えたい人や遺言書作成を急いでいる人に向いています。
<公正証書遺言>
公証人役場で遺言内容を口頭で伝えて公証人が作成します。
公証人が遺言内容を確認してくれるため形式不備の心配はなく、原本が役場に保管されるため紛失や改ざんリスクもありません。
作成手数料は相続財産価額に応じて数万かかりますが遺言書の検認手続きは不要です。遺言書に高い確実性を求める人に向いています。
<秘密証書遺言>
遺言内容は秘密のままで公証人らに遺言書の存在を証明してもらいます。
手数料や証人費用がかかりますが、遺言内容をどうしても開示したくない人はこの形式を選ぶとよいでしょう。
ただし、近年はほとんど採用されておらず利用者が少ないため、遺言書作成実務としては自筆証書遺言と公正証書遺言の2択といえます。
遺言で指示できる内容
遺言書によって遺言執行者や財産を引き継ぐ人に対して指示できる内容は以下のとおりです。
・相続分の指定、遺贈
・遺産分割方法の指定
・遺言執行者の選任
・子の認知、相続人の廃除や取消
・付言事項 など
自筆証書遺言のメリット・デメリット
自筆証書遺言を作成して残すメリットとデメリットについて解説します。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットは以下のとおりです。
- 作成費用がほとんどかからない(用紙・筆記具・印鑑のみ)
- 好きなタイミングで作成し後から修正も自由にできる
- 遺言内容を他人に知られずに済む
- 法務局の保管制度を利用すれば家庭裁判所の検認手続きは不要
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言のデメリットは以下のとおりです。
- 法的な形式の不備で遺言書自体が無効になりやすい
- 紛失、盗難、汚損、消失、改ざんのリスクがある
- 専門家のチェックがないと遺留分侵害や曖昧表現でトラブルを招く
- 保管制度を使わない場合は相続開始後に家庭裁判所の検認が必要
自筆証書遺言の要件や書き方
自筆証書遺言の法的要件や書き方について解説します。
全文を自筆で書く
遺言者ではない者の代筆や本文のパソコン作成は認められず、それらに違反すれば遺言書自体が無効になります。
財産目録はパソコンで作成可能
2019年の改正によって、通帳コピーや登記事項証明書を添付してページごとに署名捺印すれば、目録部分を自筆でなくパソコンで作成したりコピー資料を添付したりしても有効となりました。
署名する
遺言書本文の末尾に遺言者がフルネームを自署します。
署名の際に、鉛筆やフリクションペンなど書いた文字が消せる素材やインクを使用してはいけません。
作成した日付を明記する
「令和〇年〇月〇日」のように、誰もが勘違いすることなく明確に特定できる日付を明記します。
印鑑を押す
法律上は実印に限ってはいないため認印で捺印しても問題ありません。
ただし、印影の特定がしやすいことや他の重要書類の押印で使用していることもあって、実務では実印の使用が推奨されています。
訂正のルールを守る
訂正部分は二重線で抹消して余白には「〇字削除〇字加入」と注記し、その抹消線の側には訂正印を押印します。
本人が訂正していることが分からないなど訂正方法のルールを守っていない場合は、その訂正部分は無効になります。
自筆証書遺言作成のポイント
自筆証書遺言を作成周匝は、以下の3つのポイントを守りましょう。
財産を把握するために必要な書類を集める
固定資産税納税通知書、預金通帳、不動産登記事項証明書、株式関係書類などを整理し、財産の把握が漏れないように慎重にリスト化します。
- 不動産:登記事項証明書(例:〇市〇町〇丁目9-10)
- 預貯金:〇〇銀行〇〇支店 普通12345678
株式・投資信託・仮想通貨等の記載も忘れずに行いましょう。
誰に何を相続させるのか明示する
<例文>
長男〇〇に自宅(所在:〇市〇町〇丁目〇番地)を相続させる。
というように、勘違いを生まないよう具体的に財産を特定することは将来の争いを防ぐことに繋がります。
家系図を書いて配偶者・子・直系尊属の有無を整理し、相続人メンバーとそれぞれの遺留分についても確認しておきましょう。
遺言執行者を指定する
信頼できる親族がいればその者を遺言執行者として指定できます。
ただし、司法書士や弁護士などを指名しておけば法令遵守の面で安心感があり、相続手続きもスムーズに進みます。
自筆遺書遺言の6つの例文
自筆遺書遺言では良くある例文を6パターンご紹介します。
配偶者へ全ての財産を相続させる(子あり)
第1条 遺言者__は、妻__に一切の財産を相続させる。 第2条 本遺言の遺言執行者として妻__を指定する。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
配偶者へ全ての財産を相続させる(子なし)
第1条 遺言者__は、妻__に全財産を遺贈する。 第2条 遺言執行者として司法書士__を指定する。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
兄弟姉妹に財産を相続させる
第1条 遺言者__は、土地建物(所在__市__町__番__)を長女__に相続させる。 第2条 遺言者__は、〇〇銀行〇〇支店普通口座番号12345678の預金全額を長男__に相続させる。 第3条 遺言執行者として__司法書士を指定する。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
親にも財産を相続させる
第1条 遺言者__は、〇〇信用金庫〇〇支店普通口座番号87654321の預金全額を父__に遺贈する。 第2条 遺言執行者として司法書士__を指定する。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
相続人間で内容に差をつける
第1条 遺言者__は、土地建物(所在__市__町__番__)および〇〇銀行〇〇支店普通口座番号12345678の預金全額を長男__に相続させる。 第2条 遺言者__は、〇〇信用金庫〇〇支店普通口座番号87654321の預金全額を次男__に相続させる。 第3条 遺言執行者として__司法書士を指定する。 付言事項 私が亡き後に長男には母親と現宅で同居して面倒を見てもらうよう頼んだこともあり自宅とメインバンクの預金を相続させる。次男は法定相続分より少なくなってしまうが、これらの事情を理解したうえで納得し長男や母親とも仲良くしてほしい。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
※次男には遺留分以上を渡したうえで、事情を鑑みて遺産の配分に差がある意味を納得してもらうよう付言しておくことが望ましい。
未成年の子に相続させる
第1条 遺言者__は、長女(未成年)__に預金全額を相続させる。 第2条 長女__の未成年後見人として叔父__を指定する。 令和__年__月__日 遺言者 __ ㊞ |
自筆証書遺言の6つの注意点
自筆証書遺言で注意すべき6つのポイントについて解説します。
解釈しづらい表現はトラブルの元
「〇〇に十分な財産を与える」など対象財産や数量が不明の曖昧表現は避けましょう。
複数人の共同遺言は無効
夫婦の連名で二人分の遺言を一通にまとめた場合は、民法第 975 条で無効とされています。
裁判所の検認を受けず開封すれば無効
自筆証書遺言書を法務局で保管していない場合は、家庭裁判所による開封前の検認手続きが必須です。
検認手続きをしないで開封した場合は、開封した者がたとえ生前に仲がよかった親族であっても無効になります。
ビデオレターや録音音声での遺言は無効
ビデオレターや録音音声によって遺言内容を残す方法は、本人が行った意思表示が動画や音声で記録されているため、証拠能力が高そうに感じます。
しかし、民法はそれを遺言の作成方法として未だ認めていないため、静止画や音声や動画によって作成された遺言書は無効です。
近年ではデジタルデータの加工精度が飛躍的に高くなり、フェイクの判別が年々難しくなっていることも、遺言書作成方法として認められない理由の一つでしょう。
遺言後に財産が減った・無くなった
遺言後に消費してしまい指定した財産が無くなってしまった場合は、その部分は効力を失います。このような場面を想定して、遺言書に記載した指示や財産目録は定期的に見直す必要があるでしょう。
遺留分の侵害は減殺請求の可能性
法定相続人の遺留分(法定の最低取り分)を侵害すると、侵害された者から遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
遺留分割合は法定相続割合の半分が原則ですが、半分ではない場合もあるため注意が必要です。
(まとめ)自筆証書遺言書の書き方で失敗したくないなら専門家のサポートを検討しよう
自筆証書遺言は「手軽・低コスト」である反面、「形式ミスによる無効」「遺留分侵害による紛争」などのリスクがあります。
財産や家族構成が複雑な場合や失敗したくないので自力作成は避けたいとお考えなら、早めに専門家へ相談するのが安全策です。
遺言書で想い伝えるなら「いずれ」動けばよいのではなく「たった今」から対策すべきです。自分の気持ちや財産を整理して、想いを確実に届ける第一歩をすぐに踏み出しましょう。