自筆証書遺言は費用がほぼゼロ円で自力でも作成できますが、書式に不備があると無効になるため要注意です。失敗しないためには自筆証書遺言の概要やメリット・デメリット、法定要件や書き方を理解し、失敗しないポイントや注意点を守って作成しなくてはなりません。
「自分の財産を思い通りに遺したいけど、専門家に頼むほどでもない」そう考えて自筆証書遺言を作成される方は少なくありません。
しかし、自筆証書遺言は費用ほぼゼロ円でいつでも手軽に作成や修正ができるというメリットがあるものの、形式不備で無効になったり遺言書が見つからず相続が泥沼化するケースも少なくありません。
この記事では自筆証書遺言の概要やメリット・デメリット、法定要件、手順や書き方を解説し、書く際のポイントや注意点をいくつも挙げています。遺産分割の実行時に遺言書が無効にならないように、あらかじめ本記事の内容を理解しておきましょう。
自筆証書遺言の概要とメリット・デメリット
自筆証書遺言の概要およびメリット・デメリットに分けて解説します。
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言とは、遺言者が全文および日付や氏名を自署したうえで押印して作成する最も簡易な方式の遺言書です(民法968条)。
相続が開始すると、自筆証書遺言書は親族などの相続人が開封するのではなくまずは家庭裁判所の「検認」という手続きを経て遺言書としての効力が確認されます。この検認は、自筆証書遺言書の未開封状況および法定の様式を満たしているかなどを調査します。
ただし、2020年7月からはじまった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合には家庭裁判所の検認は不要です。この制度では遺言書の保管と同時に書式チェックをするため、開封後に無効だったというミスを防げるのが特徴です。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットは以下の5つです。
<費用はほとんどかからない>
自筆証書遺言は紙・ペン・印鑑を使って自分で作成するため費用はほぼゼロです。
<プライバシーが保たれる>
家族や第三者などへ遺言の内容を知られずに作成できます。
<すぐに作成できる>
思い立った日に作成に取りかかれて、遺言書の作成自体も短時間で済みます。
<修正も容易にできる>
法定の訂正ルールはごく簡単で、自分の意思だけで何度でも訂正できます。
<保管制度が便利>
法務局の保管制度を使えば家庭裁判所の検認が不要になり相続手続時間が短縮できます。
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言のデメリットは以下の5つです。
<形式に不備があると無効になる>
遺言内容が適切であっても、遺言書に署名や日付の記載がなければ遺言書は無効です。
<紛失や改ざんなどのリスクがある>
遺言書の自宅保管は、紛失や改ざん、盗難、水濡れ、汚損、消失などのリスクがあります。
<誰にも発見されない場合がある>
被相続人が遺言書を書き残していても相続人が見つけられない場合は、被相続人の意思が反映されずに遺産分割協議がなされます。
<遺言内容の解釈が分かれる>
法律用語の誤用など素人感覚で書かれた遺言内容の解釈が分かれ、相続人間に争いが生じてしまいます。
<意思能力の欠如を問われる>
高齢や病気などの症状から認知症が疑われ、遺言書作成時点の意思能力が欠如しているとして無効になった判決があります(東京高裁平成26年12月4日判決等)。
自筆遺書遺言の見本例文
自筆遺書遺言の基本パターンの見本例文をご紹介します。

引用:【遺言書の作成例(基本的な文例)】自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)|法務局
行間や空白などの余白を確保したり条ごとに一行空けたりして可読性を高めます。
数字の書き方の一例としては、不動産所在地は「〇ー〇」と省略せずに「〇番〇」と正式な表記で記載し、半角数字や略語は避けます。
自筆証書遺言の法定要件とは
自筆証書遺言の法定要件(民法968条・2020年改正に対応)について解説します。
全文を自筆で書く
遺言者本人が遺言の全文を自書します。
ただし、財産目録についてはパソコンなどで作成してプリントアウトしたものでも問題ありません。
作成した日付を明記する
作成日付を明記します。(例:令和7年8月9日)
元号もしくは西暦のいずれでも構いませんが「〇月吉日」のような日付が特定できない記載は無効になります。
署名する
氏名はフルネームを自署(戸籍名の記載が必要で通称は不可)します。
押印する
認印でも実印でも構いませんが実務的には実印が望ましく、印鑑登録証明書を添付して真実性を担保する方法が推奨されています。
適切に訂正する
適切な訂正方法は、訂正箇所に二重線を引いて欄外に「〇字削除〇字加入」と記載し、その付近に署名押印して訂正内容を自ら認証します。
自筆証書遺言を書く際の流れ
自筆証書遺言を書く際の流れは、下記の表をご参照下さい。
財産目録を作成する | 不動産は「所在・地番・地目・地積」を記載し、固定資産評価額を併記すると税申告がスムーズになる。不動産は登記事項証明書、預貯金は通帳写しのコピーを添付して記載漏れを防止する。 |
遺言を手書きする | A4縦置き横書きが一般的だが、サイズ制限がないためB5や便箋を使用することも可能。修正液での訂正は不可。 |
相続財産を漏れなく正確に記載する | 「一丁目2番3号」など登記簿謄本の表示どおりに記載する。未上場株式・暗号資産・NFT・ポイントなどは見落としがちのため注意が必要。 |
相続人を確定する | 戸籍収集で認知・養子・非嫡出子の有無を確定させる。海外在住の子も相続人に含まれる。法定相続人調査表を作って非嫡出子・認知の有無も確認する。 |
付言事項で気持ちを伝える | 「お世話になったことを感謝している」「兄弟仲良くしてほしい」「障害のある次女を支えてほしい」など想いを言語化する。 |
日付を明記する | 日付を書き直すなら全文を再度清書して新しい日付を記入する。 |
署名、捺印する | 実印+印鑑登録証明書を同封すれば真実性が高まる |
自筆証書遺言の書き方とポイント
自筆証書遺言の書き方とポイントを解説します。
財産を把握するために必要な書類を集める
財産を把握するのに使用する書類の一例は以下のとおりです。
不動産 | 登記事項証明書・固定資産税納税通知書・固定資産評価証明書 |
金融資産 | 通帳コピー・残高証明書 |
保険 | 保険証券・契約内容通知 |
デジタル資産 | 取引所残高通知・ウォレットのリカバリーフレーズ控え |
負債 | ローン返済予定表・保証人契約書 |
誰に何を相続させるか明示する
対象者や対象財産および配分を明確に示します。
長男〇〇に土地(所在・地番)のように、人物と財産を一対一対で書きます。
「遺贈する」か「相続させる」かで税務や登記手続が変わりますが、配偶者や直系卑属には「相続させる」を用いると登録免許税が軽減されるのが一般的です。
財産目録はパソコンで作成可能
財産目録に限ってはパソコンでの作成が可能であり、パソコンで作成することで作成時点の誤記載が修正しやすく手書き特有の読みにくさも解消されます。
遺言執行者を指定する
遺言執行者として司法書士や弁護士を指名すると、不動産名義変更・金融機関手続・納税などを一括代行してくれます。報酬の相場は遺産総額の0.5〜1.0%前後です。
訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
数字の書き間違いは修正液を使わず、欄外に「〇字削除〇字加筆、〇〇を〇〇に訂正」など分かりやすく付記します。
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言の7つの注意点に気をつけましょう。
<複数人の共同遺言は無効>
夫婦それぞれの遺言を一通に集約した遺言書は民法975条違反になり無効です。
<ビデオレターや音声録音による遺言は無効>
動画や音声メッセージに証拠価値はありませんが、自署の遺言書があるうえで補助資料として付けるのなら問題ありません。
<曖昧な表現は無効の元>
「任せる」「譲る」「渡す」など、曖昧な表現は避けて「相続させる」「遺贈する」と書きます。「等分」なども誤解を生む場合があります。
<遺留分侵害はトラブルの元>
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に付与された最低限の相続取り分です。
特に「全部を〇〇に…」はトラブルを招きやすいため、遺産を一人に集約したい場合には侵害額請求に備えた金銭を準備したうえで行いましょう。
<勝手に開封せず検認を受ける>
自宅で保管していた自筆証書遺言書の場合は家庭裁判所の検認手続が必須であり、検認なく開封した遺言書は無効になります。
<相続開始時までに財産を消費・処分した場合>
売却処分や消費で財産がなくなると遺言は実行不能になるため、少なくとも3〜5年ごとに見直すことを推奨します。
<海外在住の相続人>
在外邦人は印鑑証明が取れず手続きが停滞しやすいため、付言事項で「在外公館で署名証明を取得」と指示しておくと手続きが円滑になります。
(まとめ)自筆証書遺言の書き方で失敗したくないなら専門家のサポートが有効
自筆証書遺言は「費用ゼロ・書きたい時に書ける」手軽さが魅力ですが、要件や記載のミスがあると無効になったり紛失によって遺言者の意思が汲み取れなかったりします。
そのため慎重な作成や保管が必要ですが、法務局の保管制度によって検認不要・紛失リスク低減の効果が表れています。
自筆証書遺言書を作成する際には必要な情報を慎重に調べてから臨み、作成後も財産状況や遺言の意思に変化があれば3〜5年ごとの見直しを習慣化しましょう。
どのように作成してよいか分からないもしくは絶対に間違いたくない場合には、専門家のサポート受けて法定要件を確実にクリアするのがお勧めです。