香典の表書きで「御霊前」は、多くの仏教宗派で使えますが、一部宗派ではNGです。この記事では、御霊前の書き方、香典の包み方、渡し方などを詳しく解説します。香典のマナーに不安がある方や、故人や遺族に失礼がないようにしたい方は、ぜひ参考にしてください。
御霊前とは、故人の霊前に供える香典の表書きとして使われる言葉です。お通夜や葬儀、法事の際に香典を持参しますが、書き方や包み方など、さまざまなマナーがあり、戸惑う方もいるかもしれません。
「御霊前はどんなときに使えるの？」「正しい書き方は？」「お札の入れ方は？」など、香典に関する疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、御霊前の使い方、香典袋の書き方、金額の相場、お札の包み方、渡し方まで、香典に関するマナーをまとめて解説します。香典のマナーをしっかり確認し、故人や遺族に失礼のないようにしたい方は、ぜひ最後までお読みください。
御霊前とは
御霊前は表書きの一種で、故人の霊の前という意味です。故人への香典やお供え物の表書きに書いたり、「この度は誠にご愁傷さまでした。どうぞご霊前にお供えください」のように、お悔やみの言葉に添えたりして使います。
御仏前との違い
御霊前が「霊の前」であるように、御仏前は「仏の前」という意味です。仏教では人は亡くなってから49日の間は霊の状態であり、四十九日法要を経て仏になります。そのため、四十九日法要までは「御霊前」を、それ以降は「御仏前」を使います。
なお、浄土真宗では人は亡くなってすぐに仏になるため、御霊前は使いません。最初から御仏前を使いましょう。
御香典との違い
御香典も御霊前と同じく、表書きの一種です。もともとは故人に供えるお香を指して香典と呼んでいました。これが転じて、「故人に備えるためのお香を買うために使ってください」という意味で、香典としてお金を贈るようになったといわれています。
前述の通り、御霊前は浄土真宗では使えない、四十九日法要以降は御霊前ではなく御仏前を使うなど、香典の表書きには細かなマナーがあります。このような理由から御霊前はやや使いづらいため、相手の宗教がわからないなど不安なら、表書きには御香典と書くと良いでしょう。
表書きに御霊前と書けるケース
表書きに御霊前と書けるのは、次のようなケースです。
- 故人の宗教が浄土真宗以外の仏教、神道、キリスト教のカトリックの場合
- お通夜
- 葬儀
- 初七日法要
表書きに御霊前と書けないケース
表書きに御霊前と書けないのは、次のようなケースです。
- 故人の宗教が浄土真宗やキリスト教のプロテスタントの場合
- 四十九日以降の法要
御霊前以外の香典の表書き
御霊前以外で最も使いやすい表書きは「御香典」でしょう。ただ、ほかにも表書きにはたくさんの種類があります。使える表書きは宗教ごとに異なります。
宗派や地域によって異なることもありますが、宗教ごとに使える表書きは、おおむね次のとおりです。
仏教
仏教では次のような表書きが使えます。
- 御霊前（四十九日まで）
- 御仏前（四十九日以降）
- 御香奠
- 御香典 など
なお、仏教でも浄土真宗では御霊前を使いません。
神道
神道では次のような表書きが使えます。
- 御霊前
- 御玉串料
- 御榊料
- 御神饌料 など
キリスト教
キリスト教ではカトリックとプロテスタントで使える表書きが異なります。それぞれ、次のような表書きが使えます。
【カトリック】
- 御霊前
- 御花料
- 献花料
- 御ミサ料 など
【プロテスタント】
- 御花料
- 忌慰料
- 献花料 など
なお、プロテスタントでは御霊前は使えません。
無宗教
無宗教の表書きに特に決まりはありませんが、次のようなものが無難です。
- 御香典
- 御香料
- 御霊前
- 御供料 など
香典袋の筆記具マナー
香典袋に字を書くときは、使う筆記具にも気を配りましょう。
筆記具は筆または筆ペン
香典袋の外袋には、筆または筆ペンで字を書きましょう。サインペンで代用することもできますが、筆または筆ペンがベストです。ボールペンや鉛筆は使ってはいけません。
内袋に書くときも筆や筆ペンが好ましいですが、サインペンやボールペン、万年筆などを使っても構いません。
お通夜・葬儀は薄墨、それ以外は黒墨
お通夜や葬儀では薄墨を、法事では黒墨を使います。
薄墨には「涙で墨が薄くなってしまった」という意味があります。故人を悼む気持ちを込め、お通夜・葬儀では薄墨を使いましょう。
香典袋の書き方
香典袋の書き方例
香典袋には外袋と内袋があります。内袋にお札を入れ、その内袋を外袋に入れましょう。
画像のように、外袋には表書き（御香典や御霊前）と名前を、内袋には金額や差出人住所などを書きます。それぞれの書き方について確認していきましょう。
外袋の表
香典袋の外袋には水引がついています（水引の選び方は後述します）。水引の上には表書きを、下には表書きより少し小さな字で名前をフルネームで書きましょう。夫婦や会社で出すなど、連名の書き方は後ほど解説します。
先述の通り、表書きは宗教・宗派ごとに異なります。宗教ごとに使える表書きは次の通りです。なお、使える表書きは地域によって異なることもあるため、不安なら葬儀社に確認しましょう。
| 宗教 | 表書き |
| 仏教 | ・御霊前 ・御香料 ・御香奠 など ※浄土真宗は御霊前ではなく御仏前 |
| 神道 | ・御霊前 ・御玉串料 ・御榊料 ・御神饌料 など |
| キリスト教（カトリック） | ・御霊前 ・御花料 ・献花料 ・御ミサ料 など |
| キリスト教（プロテスタント） | ・御花料 ・忌慰料 ・献花料 など ※御霊前はNG |
| 無宗教 | ・御香典 ・御香料 ・御霊前 ・御供料 など |
宗教ごとの表書き
内袋の表
内袋の表には香典の金額を書きます。金額は算用数字や漢数字ではなく、旧漢数字の大字で、「金〇〇萬圓也」と書きましょう。たとえば3万円なら「金参萬園也」、5万円なら「金伍萬圓也」です。
旧漢数字の書き方は次の表の通りです。
| 数字 | 旧漢数字 |
| 一 | 壱 |
| 二 | 弐 |
| 三 | 参 |
| 五 | 伍 |
| 六 | 六 |
| 七 | 七 |
| 八 | 八 |
| 十 | 拾 |
| 千 | 仟 |
| 万 | 萬 |
旧漢数字の書き方
内袋の裏
内袋の裏には、差出人の情報を書きます。書くのは郵便番号、住所、名前です。
連名で出す場合は、3名以上なら全員分を書きます。
4名以上なら、内袋の裏ではなく、別紙に書きましょう。別紙の右上に会社名や団体名を下記、その右隣に「〇〇部 一同」と書いてから、全員分の郵便番号、住所、名前を書きます。会社として出す場合、相手も同じ会社であれば、郵便番号と住所を省くこともあります。
内袋がない場合
内袋がない場合は、外袋の裏面に金額と差出人情報を書きます。書くのは水引よりも下の位置です。
水引の下段、中央より左側の位置に、まずは小さな字で郵便番号と住所を書きます。その左に、郵便番号と住所よりも少し大きな字で金額を書きましょう。金額は内袋に書く場合と同じく、旧漢数字の大字です。
香典を連名で出す場合の名前の書き方
香典を連名（複数名）で出す場合、1人で出すときとは書き方が異なります。夫婦や会社で出す場合の書き方、人数ごとの書き方を解説します。
夫婦で出す場合
夫婦で出す場合、中央よりやや右に夫のフルネームを書きます。夫の名前の隣に、妻の名前のみを書きます。
3名以内で出す場合
3名以内の連名の場合、全員のフルネームを書きます。一番右が最も目上の人になるように、役職・立場の順に書きましょう。上下関係がない場合は、五十音順になるように書きます。
4名以上で出す場合
4名以上で出す場合、外袋の下段中央に代表者の名前を、その左に「外一同」と書きます。
会社で出す場合
会社として出す場合は中央よりやや右に会社名を、その左に「役職名 名前」もしくは「〇〇部 一同」のように書きましょう。
香典袋の選び方
香典袋は金額により種類が異なります。また、香典袋に付ける水引も、宗教ごとに違います。
金額ごとの香典袋の選び方
金額ごとの香典袋の種類は次の表のとおりです。
| 金額 | 香典袋の種類 |
| 3,000～5,000円（一般参列者） | 水引が印刷のもの |
| 1万～2万円 | 白無地の封筒に白黒の水引 |
| 3万～5万円 | 白無地の封筒に白黒または双銀の水引 |
| 6万円～10万円未満 | 中金封の封筒に双銀の水引 |
| 10万円以上 | 大金封の封筒に双銀の水引和紙製の香典袋に双銀の水引 |
金額ごとの香典袋
宗教ごとの水引
宗教ごとに使える水引は次の表のとおりです。なお、宗派や地域によって使える水引は異なることがあります。
| 宗教 | 水引 |
| 仏教 | 黒と白、銀と白、黄と白 |
| 神道 | 銀または白黒 |
| キリスト教 | なし（付けても良い） |
宗教ごとの水引
香典の金額相場
香典の金額は故人との関係性や自分の年齢に応じて変わってきます。また、お通夜・葬儀と法事で金額は異なります。
目安は次の表の通りですが、親しい相手の場合、相場より少し多めに包むこともあります。
お通夜・葬儀の香典相場
| 20代 | 30代 | 40代～ | ||
| 親族 | 両親 | 3万～10万円 | 5万～10万円 | |
| 義理の両親 | 3万～5万円 | 10万円 | ||
| 祖父母 | 1万円 | 1万～3万円 | 3万～5万円 | |
| 兄弟・姉妹 | 3万～5万円 | 5万円 | ||
| 叔父・叔母 | 1万円 | 1万～2万円 | ||
| 従兄弟・その他の親族 | 3,000～1万円 | 3,000～2万円 | ||
| 親族以外 | 上司 | 5,000円 | 5,000～1万円 | 1万円 |
| 上司の家族 | 5,000円 | 5,000～1万円 | 1万円 | |
| 勤務先の社員 | 5,000円 | 5,000～1万円 | 1万円 | |
| 社員の家族 | 3,000～5,000円 | 3,000～1万円 | ||
| 友人・知人 | 3,000～5,000円 | 5,000～1万円 | 5,000～1万円 | |
| 友人の父母 | 3,000～5,000円 | 5,000～1万円 | 5,000～1万円 | |
お通夜・葬儀の香典相場
法事の香典相場
法事の香典は、会食の有無、会食に参加するかしないかで変わります。会食に参加する場合、会食費として多めの金額を包みます。
【法事の香典相場】
| 法要のみ参加 | 会食にも参加 | |
| 親族 | 1万～2万円 | 3万～5万円 |
| 親しい友人・知人 | 1万～3万円 | 2万～5万円 |
| 友人・知人 | 5,000～1万円 | 1万～3万円 |
関係性ごとの法事の香典相場
【法事の種類ごとの相場（会食に参加する場合）】
法事の種類ごとの香典の相場
| 法要の種類 | 金額目安 | ||
| 親族 | 親しい友人・知人 | 友人・知人 | |
| 初七日 | 3万～5万円 | 2万～5万円 | 1万～3万円 |
| 四十九日 | 3万～5万円 | 2万～5万円 | 1万～3万円 |
| 一周忌 | 3万～5万円 | 2万～5万円 | 1万～3万円 |
| 三回忌以降 | 1万～5万円 | 1万～3万円 | 1万～3万円 |
| 納骨式 | 1万～5万円 | 1万～3万円 | 1万～3万円 |
法事の種類ごとの香典の相場
香典の包み方
香典を包む際、お札の選び方や入れ方、避けるべき金額などのマナーがあります。また、香典は香典袋に入れますが、香典袋は袱紗（ふくさ）という布に包みます。それぞれのマナーについて確認していきましょう。
お札の選び方
香典として包むお札は古札（使用感のあるお札）を選びましょう。新札（使用感のないきれいなお札）を包むのは不幸を予期していたように感じられるため、避けます。
手元に新札しかない場合、お札を縦に一度折り、折り目を入れましょう。
お札の入れ方
お札を入れる際は、お札の裏表や上下にも気を配りましょう。肖像画のある面を表として、お札が裏向きになるように入れます。上下は、肖像画が封筒の底にくるようにします。
避けるべき金額
香典では「お札が偶数枚になること」と「金額が忌み数になること」を避けましょう。
お札の枚数が偶数になってはいけない
割り切れる数である偶数は故人との縁が切れることを連想させ、縁起が悪いです。2万円や6万円、10万円など、偶数の金額を包む場合は、5,000円札を使ってお札が奇数枚になるよう調整しましょう。
このとき使う5,000円札は2枚です。2万円なら1万円札1枚と5,000円札2枚、6万円なら1万円札5枚と5,000円札2枚、10万円なら1万円札9枚と5,000円札2枚です。「奇数かつ最小の枚数のお札で包む」と覚えておきましょう。
金額が忌み数になってはいけない
忌み数とは、「死」を連想させる「4」、「苦」を連想させる「9」のことです。香典の金額に、これらの数字が含まれないようにしましょう。たとえば9,000円、4万円、9万円などの金額は忌み数なので、香典に包んではいけません。
ただ、「親しい相手だったし、相場の3万円だとやや少なく感じる。4万円を包みたい」という場合もあるでしょう。このような場合、香典として3万円を包んだうえで、1万円分の供物を贈るといいでしょう。
袱紗（ふくさ）の包み方
香典は袱紗（ふくさ）に包んで持ち歩きます。袱紗は、香典袋やご祝儀袋を包む布です。
お通夜や葬儀、法事などでは、寒色系で地味なデザインの袱紗が望ましいです。黒や藍色、グレーなどの袱紗です。また、紫の袱紗は慶事にも弔事にも使えるため、1枚あると便利です。
袱紗で香典袋を包む方法は次の通りです。
- 上から見てひし形になるよう、袱紗を裏向きにして置く
- 袱紗の右角を持ち、香典袋の左端に合わせて中央に折る
- 同じように、下、上の順に上下を折る
- 同じように左角を持ち袱紗を折り、右端にはみ出した部分を裏面に折り込む
香典の渡し方
香典は受付で渡します。お通夜や葬儀ではお悔やみの言葉を伝えたうえで渡しましょう。
【お悔やみの言葉の例】
この度は誠にご愁傷さまでした。どうぞご霊前にお供えください。
心からお悔やみ申し上げます。どうぞご霊前にお供えください。
香典を渡すときは、香典袋を袱紗から取り出して、袱紗を手早く畳みます。畳んだ袱紗の上に香典袋を乗せて、渡しましょう。
なお、お通夜と葬儀の両方に参列する場合、香典はお通夜でのみ渡します。香典を二度（重ねて）渡すことは、不幸が重なることを連想させるためです。
御霊前は浄土真宗とキリスト教ではNG！香典袋の正しい書き方を覚えよう
香典袋の表書きでは「御香典」や「御霊前」が無難ですが、御霊前は、浄土真宗やキリスト教では使えません。故人の宗教がわからないなら、「御香典」と書くといいでしょう。
香典袋にはさまざまなマナーがあります。表書きの書き方から包み方、避けるべき金額まで、いろいろなことに気を配らなければなりません。
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