平服とは、喪服の中でも格式を抑えた略式の装いのことです。弔事の場にふさわしい身だしなみとして用いられます。「平服でお越しください」と案内があった場合も、決して普段着で良いという意味ではなく、場の雰囲気に配慮した服装が求められます。
お通夜や葬儀、法事といった場に出向く際、「平服って何を着ればいいの?」「カジュアルすぎないか心配…」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、男女別・子どもの平服の選び方や避けるべき服装を詳しく解説します。「平服」の意味があいまいで悩んでいる方、弔事の服装マナーに自信がない方は、ぜひ参考にしてください。
平服は私服のことではない
平服とは、あらたまった場で着る略式の礼服のことです。よくある誤解ですが、普段着の私服を意味するわけではありません。
お通夜や葬儀、法事などで「平服でお越しください」と言われた場合は、場の雰囲気にふさわしい落ち着いた服装が求められます。男性であれば黒や濃紺のスーツ、女性なら地味な色のワンピースやアンサンブルが一般的です。派手な色やデザインは控え、控えめで清潔感のある装いを心がけましょう。
喪服の種類
喪服には、正喪服・準喪服・略喪服の3種類があります。それぞれに格式があり、着用する場面や立場が異なります。お通夜や葬儀、法事の場では、場の雰囲気や案内に応じて適切な種類の喪服を選ぶことが大切です。
喪服の種類 | いつ、誰が着るのか | コーディネイト例 |
正喪服 | 葬儀・告別式で喪主やごく近い遺族が着用 | 男性:黒のモーニングコート、黒のネクタイ女性:黒のワンピースまたはアンサンブル、黒のストッキング |
準喪服 | 一般参列者として通夜や葬儀・告別式に参列する場合 | 男性:ブラックスーツ、白シャツ、黒ネクタイ女性:ブラックフォーマル、黒のパンプス |
略喪服(平服) | 三回忌以降の法要や「平服でお越しください」と案内がある場合 | 男性:濃紺やグレーのダークスーツ女性:地味な色のワンピースやスーツ |
喪服の種類
お通夜や葬儀、法事における男性の平服
男性が平服で弔事に参列する際は、控えめで落ち着いた印象の身だしなみを意識しましょう。ここでは服装や小物類など、基本的なポイントを項目ごとに紹介します。
服装
弔事における平服には、黒や濃紺、チャコールグレーなど落ち着いた色のスーツが適しています。柄は無地が基本で、シャツは白の無地を選びましょう。素材は光沢を抑えたウールやポリエステルなど、上品で派手にならないものが好まれます。
反対に、カジュアルなジャケットやチノパン、明るい色のシャツなどは避けるべきです。ストライプやチェック柄のスーツも場にそぐわないためNGです。もちろん、シャドー柄もNGです。
ネクタイ
黒の無地のネクタイが基本です。光沢のない、マットな質感のものを選びましょう。柄入りやカラーネクタイなどはふさわしくありません。
ベルト
黒のシンプルな革ベルトを選びます。バックルは光沢を抑えたものが望ましく、ロゴ入りやカジュアルなデザインのベルトは避けましょう。
アクセサリー
アクセサリーは結婚指輪と腕時計のみが許容されます。結婚指輪にダイヤがついている場合は、ダイヤを内側に向けて目立たないようにしましょう。その他の装飾品は控えてください。
靴
黒の革靴が基本です。プレーントゥやストレートチップなど、装飾の少ないデザインが好まれます。スエード素材やスニーカー、茶色の靴は避けてください。
靴下
黒無地の靴下を着用します。白や柄物、くるぶし丈の短いソックスはマナー違反とされるので注意しましょう。
鞄
必要があれば、黒のシンプルなビジネスバッグやクラッチバッグが適しています。会場によっては手ぶらで参列する人も多く、無理に持参する必要はありません。カジュアルなリュックや布製バッグは避けましょう。
コート
寒い季節には黒や濃紺のシンプルなステンカラーコート、チェスターコートが適しています。カジュアルなダウンコートや派手な色柄のものは避けましょう。会場に入る前にコートを脱ぎ、腕にかけるか受付・ロッカーなどに預けるのがマナーです。
お通夜や葬儀、法事における女性の平服
女性が弔事に参列する際は、落ち着きと清潔感のある装いが求められます。ここでは、服装や身だしなみに関するポイントを項目ごとに解説します。
服装
黒や濃紺、グレーなどの地味な色合いのワンピースやアンサンブル、パンツスーツが適しています。デザインはシンプルで体のラインが出すぎないものを選び、スカート丈は膝が隠れる程度が目安です。素材は光沢のないウールやポリエステルなどが望ましく、装飾は控えめにします。
肌の露出が多い服、レースやリボンなどの装飾が目立つデザインは避けてください。明るい色や柄物も不適切です。華美な印象を与える服装は控えましょう。
アクセサリー
女性も男性と同じく、結婚指輪と腕時計のみが基本です。
それ以外のアクセサリーはつけないのが基本ですが、真珠のネックレスやイヤリングは例外とされます。1連の白またはグレーのパールであれば、弔意を表すものとして受け入れられています。
光沢の強いアクセサリーや2連以上のパール、金属製の派手な装飾品は不適切です。カラーストーンや揺れるデザインのイヤリングも避けましょう。
鞄
黒のフォーマルバッグが望ましく、素材は布やレザーのつやを抑えたものが適しています。装飾のないシンプルなデザインを選びましょう。ビジネスバッグのように自立する小ぶりのタイプも使いやすいです。
ブランドロゴが大きく入ったものや、金属の装飾が目立つバッグ、カジュアルなトートやショルダーバッグは避けてください。
靴
黒のプレーンなパンプスが基本です。3〜5cm程度のローヒールが望ましく、素材はエナメル以外の光沢のないものが適しています。
サンダルやミュール、オープントゥなど肌の露出がある靴は避けましょう。ヒールが高すぎる靴や装飾のあるデザインもマナーに反します。
ストッキング
黒の無地ストッキングを着用します。寒い季節でもタイツは避け、薄手のストッキングで整えるのが基本です。
柄入りやラメ入り、カラータイツなどは不適切とされます。網タイツや厚手のタイツも場にそぐわないため避けてください。
メイク
落ち着いたトーンの控えめなメイクが基本です。ベースは自然な肌色で整え、リップやチークも目立たない色を選びます。
濃いアイメイクや鮮やかなリップカラー、ツヤ感の強いファンデーションは控えましょう。
ネイル
ネイルは控えるのが望ましいですが、ベージュやピンク系のごく薄い色は許容されます。ツヤを抑えたマット仕上げが適しています。
原色やラメ入り、アートネイルなど目立つデザインは避けてください。長さのあるネイルも不適切です。
このような目立つネイルをすでにしていて、それを落とせない場合、黒い手袋をはめましょう。なお、焼香の際は手袋を外します。
コート
黒や濃紺などの落ち着いた色合いで、シンプルなデザインのコートが適しています。ウール素材やカシミヤなど、光沢のない質感が望ましいです。会場に入る前にはコートを脱ぎ、腕にかけるか受付・ロッカーなどに預けましょう。
ダウンコートや明るい色のコート、装飾の多いデザインは場にふさわしくありません。会場内で着たまま過ごすのもマナー違反となるため注意が必要です。
お通夜や葬儀、法事における子どもの平服
子どもの場合も、大人と同様に落ち着いた色合いと清潔感のある服装を心がけることが大切です。ここでは、年齢や性別を問わず参考になる身だしなみのポイントを紹介します。
服装
制服がある場合、制服を着ましょう。制服であれば、明るい色や派手な柄のものでも問題ありません。
制服がない場合、子ども用のブラックフォーマルがあれば、それが最も無難です。なければ、白シャツに黒や紺のズボン、あるいはジャンパースカートやワンピースなど、シンプルで落ち着いた色の服を選びましょう。
カラフルなTシャツやデニム、プリントのある洋服など、日常的すぎる服装は避けるべきです。また、フリルやレースなどの装飾が目立つ服も控えましょう。
靴
黒や紺、グレーなど落ち着いた色のローファーやスニーカーが適しています。布製ではなく、合皮やレザー調の素材の方が場にふさわしい印象になります。キャラクターが描かれた靴や、派手な色の運動靴は避けてください。
靴下
白または黒の無地の靴下が基本です。シンプルで清潔感のあるものを選びましょう。カラフルな靴下やキャラクターもの、柄物は場にふさわしくありません。
年忌法要の平服の色は次第に薄くなっていく
お通夜や葬儀、そして三回忌までの法要では、「平服でお越しください」と案内されていても、黒を基調とした服装を選ぶのが無難です。紺やグレーなどの色は避け、落ち着いた印象を意識することで、場にふさわしい装いになります。
一方、七回忌以降の年忌法要では、紺やグレーなどの控えめな色の服装でも差し支えありません。年数を経ることで、遺族の気持ちも少しずつ落ち着き、法要の雰囲気も柔らかくなっていくためです。服の色もそれに合わせて徐々に明るく(薄く)なっていくという考え方です。
平服は私服ではない!TPOをわきまえきちんとした服装を
弔事における平服とは、普段着ではなく略喪服のことです。「平服でお越しください」と案内された場合でも、黒を基調とした落ち着いた服装を心がけることが大切です。場にふさわしい素材や色を選び、過度な装飾を避けた装いを意識しましょう。
平服という言葉は、就職活動やパーティなどさまざまな場面で使われます。この場合も「私服=カジュアルな服装」と解釈するのは誤りです。
あくまで礼装ではない、ある程度きちんとした服装を求められているということです。案内の言葉にとらわれすぎず、TPOをわきまえた装いを意識することが、大人としての基本的なマナーといえます。