遺言書がある場合、相続税はどうなるのでしょうか。遺産分割との関係や税額への影響、配偶者控除・小規模宅地等の特例、遺留分など、詳しく解説します。
「遺言書があると相続税は安くなるの?」「遺言通りに分ければ申告は簡単?」と疑問に思う方は少なくありません。遺言書は遺産分割の方法を指定する重要な書類です。ただし、相続税の計算方法そのものが変わるわけではありません。相続では、誰がどの財産を取得するかによって税額や適用できる特例が異なります。
本記事では、遺言書がある場合の相続税の考え方と注意点を解説します。
遺言書がある場合の相続税の基本的な考え方
「遺言書があると相続税は変わるのか?」という疑問は非常に多いです。結論から言うと、相続税の計算方法そのものは、遺言書の有無によって変わるわけではありません。ただし、誰がどの財産を取得するかによって最終的な税額や各人の負担額は変動します。
まず押さえておくべき基本的な考え方を整理していきましょう。
原則、遺言書があっても相続税の計算方法は同じ
遺言書は財産の分け方を指定するものであり、相続税の計算の仕組み自体を変えるものではありません。相続税は、被相続人が亡くなった時点で保有していた以下の財産を対象に計算されます。
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 有価証券(株式・投資信託など)
- 事業用資産
- 生命保険金(みなし相続財産)
- 死亡退職金
- 生前贈与の一部(相続開始前一定期間内の贈与など)
つまり、遺言書の有無で課税対象となる財産の範囲が変わることはありません。
相続税には基礎控除があり、以下の計算式で求められます。
【3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数】
ここで重要なのは、基礎控除の計算は法定相続人の数を基準にする点です。たとえ遺言書によって特定の相続人が財産を取得しなかったとしても、法定相続人である限り、その人数は基礎控除の計算に含まれます。
遺言書の有無で変わるのは取得する人と税額配分
遺言書の大きく変わるのは、誰がどれだけの財産を取得するかという点です。
遺言書がない場合、原則として民法で定められた法定相続分に従って遺産を分けます。例えば配偶者と子ども2人が相続人の場合は、配偶者が1/2、子どもがそれぞれ1/4ずつとなります。
その一方で、遺言書がある場合は、被相続人が自由に割合を指定できます。これを指定相続分といいます。 「配偶者に全財産を相続させる」「長男に不動産、次男に預金を相続させる」など、法定相続分に縛られずに財産配分が決まるのが遺言書の特徴です。
税額は各人の取得割合で変動する
相続税は、いったん法定相続分で計算した総額を算出し、その後、実際の取得割合に応じて各人に按分します。つまり、多く取得する人は税額も多くなり、少なく取得する人は税額も少なくなります。
さらに、相続税は超過累進税率のため、一人に集中して財産を取得させると税率が上がる可能性もあります。そのため、遺言書の内容次第で最終的な税負担のバランスが大きく変わる場合があります。
遺言書があると遺産分割協議は不要になるのか
有効な遺言書がある場合、原則として遺産分割協議は不要です。なぜなら、すでに被相続人が財産の分け方を指定しているため、相続人同士で改めて協議する必要がないからです。特に公正証書遺言であれば、内容が明確で手続きも比較的スムーズに進みます。
相続人全員の合意で分け方を変更できるケース
ただし、相続人全員が同意すれば、遺言書と異なる分け方も可能です。例えば、遺言では長男が自宅を取得する予定だったものの全員合意で配偶者が取得する、現金化して分配するなどのケースです。この場合、税務上は実際に取得した財産内容に基づいて相続税を計算します。
遺言書がある場合に相続税額が変わる理由
遺言書があっても相続税の計算方法自体は同じです。ただし、実際の税額は遺言の内容によって大きく変わる場合があります。
なぜなら、相続税は誰がどれだけ取得したかによって最終的な負担額が決まる仕組みだからです。ここでは、税額が変動する具体的な理由を解説します。
取得割合が変わると累進税率が変わる
相続税は、超過累進税率です。取得する財産額が多いほど、高い税率が適用されます。
例えば、課税価格が同じ総額でも、1人がすべて取得する場合と2人で均等に分ける場合では、税率のかかり方が異なり、分散したほうが税率が低くなるケースもあります。
配偶者が多く取得すると税額が抑えられる
相続税には、配偶者の税額軽減という非常に大きな特例があります。配偶者が取得した財産については、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、相続税がかかりません。
そのため、遺言で「配偶者に多く相続させる」と指定すると、一次相続では税額を大きく抑えられる可能性があります。
ただし、配偶者が亡くなった二次相続で税負担が増える可能性があったり、必ず相続税の申告が必要になったりなどの注意点があります。
子や孫に多く渡すと税負担が増える可能性
一方で、配偶者ではなく子や孫に多く財産を渡す内容の遺言の場合、税負担が増える場合があります。被相続人の兄弟姉妹 、甥・姪、代襲相続人(既に子が亡くなっている場合の孫)ではない孫が財産を取得すると、相続税が2割加算されます。たとえば「孫に直接相続させる」という遺言を書いた場合、通常より税額が高くなる可能性があります。
孫を養子にしているケースでは、法定相続人の数に制限があり、基礎控除に算入できる人数が限定されます。そのため、節税目的での養子縁組は思ったほど効果が出ない場合もあるため慎重な検討が必要です。
遺言書がある場合でも注意したい特例・控除
遺言書があっても、特例や控除は自動的に適用されるわけではありません。取得者や分割状況によって、適用の可否が左右されます。
配偶者の税額軽減は申告が必要
配偶者の税額軽減は大きな特例ですが、必ず相続税の申告が必要です。
申告期限は、相続開始から10ヵ月以内です。
小規模宅地等の特例は取得者が重要
被相続人の自宅や事業用土地については、小規模宅地等の特例により評価額を最大80%減額できます。しかし、配偶者が取得する場合や同居していた親族が取得する場合など、取得者の要件が厳格に定められています。
遺言で同居していない子に自宅を相続させると、この特例が使えないケースもあるため注意が必要です。
【参照】No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
生命保険金や死亡退職金には、【500万円 × 法定相続人の数】という非課税枠があります。
ただし、受取人が相続人でない場合、この非課税枠は使えません。遺言内容と受取人指定の整合性も重要です。
遺言書があっても起こるトラブルと相続税への影響
遺言書があれば必ず円満に進むとは限りません。トラブルが発生すると税務処理にも影響します。
遺留分侵害がある場合
遺言によって一部の相続人の取り分が極端に少ない場合、遺留分侵害額請求が行われるケースがあります。
この場合、実際に支払った金額に応じて税額修正が必要になったり、更正の請求や修正申告が発生する可能性があったりなど、税務手続きが複雑になります。
遺言が無効と争われた場合
自筆証書遺言の形式不備などにより無効と判断された場合、「法定相続分による分割」へ戻ります。その結果、税額計算もやり直しになるケースがあります。
遺産分割がまとまらない場合
相続税の申告期限は10ヵ月以内です。遺産分割がまとまらなくても、申告自体はしなければなりません。未分割で申告した場合、配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えないケースがあります。
そのため、後日更正の請求が求められる可能性があります。
遺言書がある場合の相続税対策の6つのポイント
遺言書があれば相続手続きはスムーズに進みやすくなります。しかし、相続税の負担まで自動的に軽くなるわけではありません。むしろ、分け方によっては税額が増えてしまうケースもあります。
ここでは、遺言書がある場合に押さえておくべき相続税対策の重要なポイントを整理します。
1. 相続税の概算を把握してから遺言を作成する
遺言書を作る前に大切なのは、現在の財産状況で相続税がどの程度発生するのかの把握です。相続税は財産総額と誰がどれだけ取得するかによって決まります。
そのため、税額の目安を知らずに遺言を作成すると、意図せず税負担の大きい分け方になってしまう可能性があります。
特に、特定の相続人に財産を集中させる内容にすると、その人の取得額が増え、累進税率により税額が高くなる場合があります。
複数の分け方を想定し、どのパターンが最も税負担を抑えられるのかを比較したうえで遺言内容を決めることが重要です。遺言は感情面だけでなく、税務面からの検討も欠かせません。
2. 配偶者の税額軽減を意識した財産配分にする
相続税対策として特に重要なのが、配偶者の税額軽減の活用です。配偶者が取得した財産については、1億6,000万円または法定相続分まで相続税がかからないという大きな特例があります。この制度を活用すれば、一次相続では税額を大きく抑えられる可能性があります。
しかし、配偶者にすべての財産を相続させると、二次相続で子どもが多額の税金を負担するケースがあります。一次相続だけを見て判断するのではなく、将来的な二次相続まで見据えてバランスよく分配することが、長期的な節税につながります。
3. 小規模宅地等の特例が使える取得者を意識する
自宅や事業用土地がある場合、小規模宅地等の特例によって土地の評価額を最大80%減額できる可能性があります。この特例が適用されるかどうかで、相続税額は大きく変わります。
ただし、特例の適用は誰が土地を取得するかによって左右されます。たとえば、同居していない子どもに自宅を相続させる内容の遺言にすると、特例が使えない場合があります。遺言書を作成する際は、分け方によって特例の適用可否が変わることを十分に理解し、税務上不利にならないよう注意する必要があります。
4. 納税資金まで考慮した遺言にする
相続税は原則として現金で一括納付します。不動産中心の財産構成にもかかわらず、現金の配分が不十分な遺言になっていると、取得者が納税に困る場合があります。
評価額は高くても換金しづらい不動産ばかりを相続した場合、納税のために売却を余儀なくされるケースもあります。誰が税金を支払うのか、その人に十分な現金や預金があるかまで考慮して遺言を設計することが大切です。相続税対策は税額だけでなく、支払えるかどうかまで含めて考える必要があります。
5. 遺留分を考慮しないと税務手続きが複雑になる
遺言で一部の相続人に大きく偏った分け方をすると、遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。その結果、金銭の支払いが発生し、相続税の修正申告や更正の請求が必要になる場合があります。
相続税の申告期限は10ヵ月と限られています。そのため、後から分配が変わると税務手続きが煩雑になります。極端な分け方はトラブルだけでなく、税務上の負担も増やすおそれがあるため、遺留分を踏まえた慎重な設計が望ましいといえます。
6. 孫に相続させる場合は2割加算に注意する
孫に直接財産を相続させたいと考える方もいます。しかし、一定の場合には相続税が2割加算されます。節税のつもりで孫に相続させた結果、かえって税負担が増えるケースもあります。
孫への承継を検討する場合は、加算の有無や将来の相続との関係を確認したうえで判断することが大切です。単に「若い世代に早く渡したい」という理由だけで決めるのではなく、税務面も含めた総合的な検討が必要です。
遺言書があっても相続税対策は検討が必要
遺言書がある場合でも、相続税の計算方法そのものが変わるわけではありません。
しかし、誰がどの財産を取得するかという分け方次第で、最終的な税額は大きく変わります。
特に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用可否、納税資金の確保、さらには遺留分への配慮などは、遺言の内容と密接に関係しています。
遺言書は相続トラブルを防ぐための有効な手段です。しかし、税務面まで考慮されていなければ、かえって家族に負担を残してしまう可能性もあります。一次相続だけでなく、将来の二次相続まで見据えたバランスの取れた設計が重要です。
相続は突然訪れることも少なくありません。「まだ先のこと」と後回しにせず、早めに財産状況を整理し、遺言内容と相続税対策をあわせて検討することが、ご家族の安心につながります。
将来の相続や遺言、葬儀に関する不安がある方は、終活全般をサポートするあんしん祭典への相談も検討してみてはいかがでしょうか。葬儀の準備だけでなく、相続や遺言についての基礎知識も含めて事前に整理しておくことで、ご家族の負担を大きく軽減できます。


