相続税は必ずしも高額になるわけではなく、基礎控除や配偶者控除その他の控除特例を活用すると結果的に非課税になる場合も少なくありません。
また、全ての財産が課税対象ではなく、相続しても非課税の財産もあります。相続の概要や税額計算の基礎をはじめ、控除や特例までを解説します。
「相続税ってどれくらい支払うのだろう」「できれば事前に節税対策を知って講じておきたい」といった不安や疑問をお持ちではありませんか。実は、一定の要件を満たすと相続税が非課税になるケースは少なくありません。
この記事では、相続の概要をはじめどのような場合に非課税・免除・控除の特例が適用されるのかを解説します。遺産の額や家族構成ごとのポイントを理解し、トラブルを回避しつつ納得のいく相続になるよう、少しでも早いうちから準備を進めましょう。
相続および法定相続人とは?
相続とは、被相続人(亡くなった方)の財産(プラスの資産・マイナスの債務)を法律で定められた人(法定相続人)もしくは被相続人が生前に遺言で指定した人などが引き継ぐことをいいます。
法定相続人間の相続は、民法で定められている順序に従って被相続人に近い関係の人から優先的に相続を受けます。
相続したくない場合には、全ての財産について相続放棄の意思表示を示すことも可能です。
順位が高い人のみ相続可能
原則として、配偶者(夫や妻)と次順位の方が法定相続人になり、法定割合で遺産を配分します。
<法定相続人の関係性と相続分>
法定相続人は、配偶者・子ども・親・兄弟姉妹といった家系のなかで、被相続人に近い関係の方から優先的に相続することになります。
通常は配偶者が常に相続人となり、その夫婦に子どもがいる場合は、配偶者に加えて子どもも相続人になります。子どもがいない場合は親が、親もいない場合は兄弟姉妹へという流れです。
また、法定相続人が複数いる場合は、それぞれに法定相続分が定められています。ただし、遺言書がある場合は遺言に沿って配分、相続人全員で遺産分割を協議した場合は協議通りに配分するため、法定相続分と異なる相続割合になる可能性があります。
<相続割合で注意すべきケース>
以下の場合には、通常の法定相続の優先順位や相続分とは異なるルールが適用される可能性があります。
・相続人のなかに被相続人が認知した子や養子がいる場合
・事実婚や内縁関係など配偶者のようなパートナーがいる場合
・相続欠格や廃除の対象となる人物が相続人から除かれる場合
相続税の制度には非課税や控除特例がある
相続税は、全ての相続財産に必ず課税されるわけではありません。一定の枠までは非課税になる制度の「基礎控除」、特別な立場の相続人(配偶者・未成年・障害者など)に適用される控除や特例などがあります。
相続税が非課税になる場合
相続税が非課税になる要件として、このような場合があります。
相続総額が3,600万円以下なら無税
相続税は遺産総額をもとに計算します。
遺産総額とは、被相続人が持つ現預金や株式や不動産などのプラスの資産から借入金や支払い義務などのマイナスの債務を差し引き、さらに葬儀費用なども差し引いて算出したものです。
そこから一定の控除を使って、課税の対象が残るかどうかを判断します。
基礎控除の計算方法
相続税には「基礎控除」という制度が設けられており、以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )
法定相続人が1人の場合は3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円というように、相続人の数が増えるごとに基礎控除額は大きくなります。
遺産総額が3,600万円以下は無税
たとえば法定相続人が1人の場合、遺産総額が3,600万円以下であれば相続税はかかりません。この場合の遺産総額が3,000万円なら基礎控除を引けば遺産総額は0円で相続税も0円となりますが、このようなケースは意外と多くあります。
控除や特例を利用しても無税になる
相続財産の種類や相続人の属性によっては、基礎控除や他の控除および特例を活用して節税できます。控除や特例の制度については後述します。
被相続人の配偶者にだけある特例
被相続人の配偶者にだけにある特別な控除制度として「配偶者の税額軽減」があります。
配偶者の税額軽減を制度の上限まで適用
配偶者が実際に相続した遺産総額が1億6,000万円以下の場合は相続税がかかりません。この制度により、かなり大きな遺産を相続しても実質的に無税となる可能性が高くなります。
配偶者の税額軽減を法定相続分まで適用
配偶者の税額軽減は、遺産総額が1億6,000万円を超えるような場合でも無税になる場合があります。
たとえば、配偶者と子どもがいる家庭の相続において遺産総額が5億円ある場合、配偶者が法定相続分である遺産総額の1/2相当を相続する場合は、1.6億円を超える2億円の配分です。
しかし、配偶者は1.6億円もしくは法定相続分のいずれか大きいほうまでは無税になるという救済措置があります。この場合は 2億円 > 1.6億円 なので、金額が大きいほうである2億までなら相続税がかからないような制度設計になっているのです。
相続税が非課税の財産がある
相続税の対象となる財産は、被相続人が持っていた現金や預金、不動産、有価証券などを含む全資産です。しかし、遺産のなかには非課税として扱われる財産もあります。
墓石・仏壇・位牌・仏像などの日常礼拝で使用する道具類
被相続人の信仰に関わる祭祀財産であると認められるものは非課税です。しかし、あくまで「日常礼拝の用に供していたもの」が対象であり、骨董品や美術品としての価値があり高額取引されるような貴重品は非課税の対象外です。
法定相続人が受け取る生命保険金
生命保険金は「みなし相続財産」といわれ、相続税の課税対象に含まれます。しかし、法定相続人が受け取る場合に限り、次の非課税枠が用意されています。
500万円 × 法定相続人の数
この計算式で算出される金額までは非課税です。複数の相続人がいる家庭なら合計額が大きくなります。
法定相続人が受け取る死亡退職金
死亡退職金も生命保険金と同様に「みなし相続財産」に分類されます。非課税枠の計算式は保険金と同様です。
500万円 × 法定相続人の数
法定相続人が国や公共の団体へ寄付した相続財産
国や地方公共団体、または一定の公益法人に相続財産を寄付する場合、その寄付した財産については相続税が非課税です。
公益目的の事業の運転資金として投じた相続財産
公益法人等が行う公益目的事業の運転資金に充当される財産については、相続税の課税対象外です。ただし、遺産の使途が学術や慈善など社会に広く貢献する目的に使われることが条件です。
個人経営の幼稚園事業の運転資金として投じた相続財産
公益的な教育機関のひとつである幼稚園事業への充当も、一定の要件を満たせば相続税の非課税対象です。
個人経営であっても教育の公益性が担保されていると判断できるなら非課税と判断される可能性があります。
その他にもある控除特例
基礎控除や配偶者の税額軽減の他にも、一定の要件を満たす場合に使える控除特例が複数用意されています。
未成年の法定相続人は上限200万円まで非課税
相続人が未成年の場合、成年(18歳)になるまでの年数に応じて一定額が控除されます。控除額は1年につき10万円と定められ、法定相続人が1人だとしても上限200万円まで非課税となる可能性があります。
障害を持つ法定相続人は1年10万円か20万円が非課税
障害を持つ相続人の場合は、年齢や障害の程度に応じて1年につき10万円または20万円の控除が受けられます。
贈与税額控除
被相続人から生前贈与を受けていた場合、その贈与に対して既に支払った贈与税を相続税額から控除できる制度です。
相次相続控除
先代から相続財産を受け取ったあと、短期間(10年以内)に続けて死亡した場合、前の相続で納めた相続税を調整するための控除があります。
外国税額控除
相続財産のなかに海外資産があり、外国で相続税その他類似する税金を納めた場合に適用されます。日本と海外で二重に納税しないために、海外で納めた税額が日本の相続税から差し引かれます。
相続税の早見表で目安の税額が分かる
実際に相続税がどの程度かかるのかは、国税庁のウェブサイトや各種の専門書などに掲載されている以下の速算表(早見表)を使うと目安の税額が分かるので便利です。
ただし、各種控除・特例を使う場合は別途計算が必要なので、あくまで大枠の金額を把握するために活用しましょう。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 | 3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 | 5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 | 1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 | 2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 | 3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 | 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
引用:「相続税の速算表」No.4155 相続税の税率|国税庁
財産を相続しても非課税になる場合を知っておこう
相続税は思ったよりも高額で期限もあるため、納税資金を工面するのに苦労するというイメージが多いかも知れません。
しかし、実際には基礎控除に加えて配偶者や未成年・障害者を対象とする特別控除、命保険金や死亡退職金の非課税枠などたくさんの優遇措置があり、最終的には無税になることも少なくありません。
また、相続には相続税だけでなく遺言書の有無や遺産分割協議といった事情も密接に関わります。まずは本記事で紹介した非課税のケースをベースに、必要に応じて専門家に相談しながら進めていくと安心です。
親が生きているうちに相続に関する家族会議をするケースは増えています。家族全員が納得できるように、早めの情報収集や準備を進めておきましょう。