遺留分とはどのような制度なのか、基礎知識から、請求方法、相続トラブルを防ぐ対策までをわかりやすく解説します。
遺言書は被相続人の意思を反映する大切な手段ですが、相続人には遺留分という最低限の取り分が法律で保障されています。遺留分を侵害すると、後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、相続が長期化・複雑化することもあります。
本記事では、遺留分の基本知識、請求の流れ、遺言書作成時の具体的な対策までをわかりやすく解説します。争いのない円満な相続を実現するための参考にしてください。
遺留分とは
遺留分とは、相続人が最低限受け取れる相続財産の割合を法律で保障した制度です。被相続人(亡くなった方)は、遺言書を作成することで自由に財産の行き先を指定できます。ただし、無制限に自由が利くわけではありません。
特定の相続人に全財産を遺贈するといった極端な内容の遺言があった場合、他の相続人の権利が脅かされる恐れがあります。この不公平を防ぐために民法で定められているのが、遺留分制度です。
遺留分はあくまで請求により行使される権利であり、侵害された場合に自動的に財産が戻ってくるわけではありません。遺留分を受け取るためには、侵害された相続人が自ら遺留分侵害額請求という手続きをする必要があります。
【参照】民法1042条
遺留分が認められる理由
被相続人の遺志に背くような遺留分は、なぜ認められるのでしょうか。
遺留分を受け取るための遺留分制度には、大きく2つの目的があります。相続人の生活保障と、相続人間の公平性を確保することの2つです。それぞれの目的について、詳しく解説します。
相続人の生活保障
被相続人の財産は、生前に家族の生活を支えてきた基盤でもあります。遺言によってすべての財産を他人に譲ってしまうと、残された家族の生活が困難になる恐れがあります。遺留分はこのような事態を防ぐために、最低限の財産を確保する役割を果たします。
相続人間の公平性の確保
遺言や生前贈与によって一部の相続人だけが極端に優遇されると、相続人間の公平性が損なわれ、トラブルの原因になります。遺留分は、相続人間のバランスを保つための最低限のラインでもあります。
遺留分権利者とは
遺留分は法律で定められた特定の相続人にのみ与えられる権利であり、すべての相続人に認められているわけではありません。
【参照】民法1042条
遺留分権利者に該当するかどうかは、相続開始時の相続人の構成によって異なります。どのような相続人構成のときに誰が遺留分を認めてもらえるのか、解説します。
遺留分を持つのは、以下の相続人です。
1.配偶者
婚姻関係にある配偶者は、常に遺留分権利者となります。配偶者は被相続人の財産形成や生活に深く関与しているのが一般的です。そのため、生活保障の観点から常に保護されます。
ただし、法律婚が前提であり、内縁関係や事実婚の配偶者に遺留分は認められません。また、離婚している場合も同様に権利は消滅します。
2.子(養子を含む)
実子だけでなく、法律上の養子にも遺留分が認められます。養子縁組によって親子関係が成立している場合、実子と同等に相続権・遺留分権があります。
また、代襲相続(親より先に死亡した子の代わりに孫が相続するケース)の場合、代襲相続人にも遺留分があります。
3.直系尊属(父母や祖父母)
被相続人に子がいない場合、直系尊属(父母や祖父母)が相続人となり、遺留分が認められます。
ただし、直系尊属の遺留分割合は他の相続人よりも低く設定されており(全体の3分の1)、その目的は主に生活の安定確保にあります。
遺留分がない相続人
遺留分が認められない代表的な相続人が兄弟姉妹です。兄弟姉妹は、被相続人との生活基盤が共通していない場合が多く、生活保障の必要性が相対的に低いと考えられています。そのため、遺言によって兄弟姉妹に財産を相続させないと指定されても、法的に異議を唱えられません。
遺言書で遺留分の侵害はできない
遺言書は、被相続人が生前に財産の分け方を自由に指定できる強力な手段です。しかし、その自由は無制限ではなく、民法によって相続人の最低限の権利である遺留分が保護されています。
遺言書に遺留分を侵害する内容を書くことは可能です。例えば、被相続人が「全財産を長男に相続させる」という遺言を残しても、それ自体は法律上有効です。
しかし、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることで、法律で保障された取り分を金銭で取り戻せます。そのため、遺言書作成者は「遺留分を侵害すれば後で請求される可能性がある」という前提で内容を決める必要があります。
なお、遺留分侵害請求をした場合、遺言書の内容は金銭の支払いによって修正されます。先ほどの例でいえば、全財産を相続した長男は、遺留分を侵害された相続人に、その人の最低限の取り分を金銭で支払分けなければなりません。
このように、遺留分を侵害した内容だからといって遺言書が無効になることはありません。ただし、遺留分を請求される可能性がある、そして請求された場合には金銭での支払いが必要であることを理解しておきましょう。
遺留分侵害額請求権とは
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された相続人が、侵害した人に対して金銭の支払いを請求できる権利です。2019年(令和元年)の相続法改正で導入されたもので、遺留分減殺請求権に代わって新しく設けられました。
改正前は、遺留分を侵害された場合に不動産や株式など物そのものを返還させられました。しかし、この方法では不動産が共有状態になるなど、相続後の管理や売却が困難になる問題がありました。そこで改正後は原則金銭での清算に一本化され、トラブルを減らしやすくなりました。
遺留分侵害額請求権は、相続が開始した時点で発生します。
ただし、権利を行使できる期間には期限があり、以下のいずれか早い時点で時効となります。
短期消滅時効:相続開始および遺留分侵害を知った日から1年以内
除斥期間 :相続開始から10年以内(侵害を知らなくても適用)
この期限を過ぎると、遺留分を請求する権利は完全に失われます。そのため、遺留分を侵害された可能性がある場合は、財産調査や専門家への早めの相談が重要です。
【参照】民法1046条
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求の一般的な手順は以下の通りです。
1.内容証明郵便で請求意思を伝える
まずは、遺留分を侵害して財産を取得した人に対し、遺留分侵害額請求の意思を明確に通知します。内容証明郵便を使うことで「いつ、どんな内容を送ったか」が証拠として残ります。
2.当事者間で交渉
金額や支払い方法について、財産を取得した人と直接交渉します。双方が合意すれば、示談書を作成して解決します。
3.家庭裁判所へ調停申立
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員を交えて協議し、合意形成を目指します。
4.訴訟へ移行
調停でも解決しない場合、地方裁判所で訴訟を起こします。裁判所の判決により、支払い義務が確定します。
遺留分侵害額請求に必要な書類と証拠
遺留分侵害額請求をするには、以下のような書類や証拠を用意します。
被相続人の戸籍謄本 | 相続関係を証明するために必要です。 出生から死亡までの一連の戸籍を揃える必要があります。 |
財産目録 | 相続財産の内容と評価額をまとめた一覧表。 預貯金や不動産、有価証券などを記載します。 |
贈与契約書や預金通帳の写し | 生前贈与や財産異動の事実を証明するための資料です。 |
遺言書の写し | 遺留分侵害の有無を確認するために必要です。 |
遺言書作成時の遺留分対策
遺言書は被相続人の意思を明確に残せる有効な手段です。ただし、遺留分を侵害してしまうと後に相続トラブルを招く可能性があります。
ここでは、遺言書を作成する際に取れる具体的な遺留分対策を3つ紹介します。
1.事前に相続人全員の合意を得る
最も確実な方法は、生前に相続人全員と話し合い、財産の分け方についての合意を得ておくことです。「長男に事業用不動産を集中させたい」「特定の子に多くの遺産を残したい」といった場合でも、事前に全員が納得していれば遺留分侵害額請求をされるリスクは大幅に下がります。
また、相続開始前に相続人が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することも可能です。ただし、放棄は取り消せないため、慎重な説明と同意が不可欠です。
【参照】民法1049条
2.事前に生前贈与・特別受益を整理する
生前贈与や特別受益(相続分の前渡しとなる贈与)が偏っていると、遺留分の計算に組み込まれ、後で請求の対象になる場合があります。遺言書を作成する前に、過去の贈与を整理し、相続人間でのバランスの確認が重要です。
また、贈与の場合には贈与契約書や資金移動の記録を残しておくことで、後日の紛争防止につながります。
相続と贈与について詳しく知りたい方はこちら
3.公正証書遺言の活用
遺言書の形式的な不備や紛失を防ぐためには、公証人が作成する公正証書遺言が有効です。公正証書遺言は公証役場で公証人が関与し、法律に沿った形式で作成されます。そのため、無効となるリスクがほとんどありません。
さらに、遺留分を侵害する可能性がある内容については公証人がその点を指摘してくれる場合もあり、事前に対策を講じやすくなります。
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公正証書遺言の手続き方法|本人と相続人が知るべきメリット・デメリットや相場費用
遺言書作成には遺留分への理解と対策が必要
遺留分は、相続人が最低限確保できる取り分を保障する重要な制度です。遺言書は被相続人の意思を尊重するための強力な手段ですが、遺留分を侵害してしまうと、後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺言書を作成する際は誰に遺留分があるのか、遺留分の割合はいくらか、請求された場合の影響などを正しく理解しておく必要があります。
また、相続人全員の合意を得る、生前贈与の整理、公正証書遺言の活用、生命保険の利用など、事前の対策を講じることで、トラブルを大きく減らせます。制度や計算方法は複雑なため、不安がある場合は早めに専門家へ相談し、円満な相続を実現できる準備を整えておきましょう。
遺留分について迷うことがあれば、専門家に相談すると安心です。あんしん祭典では遺留分について相談できる専門家をご紹介しています。