遺言書がある場合、その種類によって相続手続きの流れは異なります。遺言書を見つけた場合の開封・検認・遺産分割などに関する注意点を解説します。
相続が発生した際、遺言書がある場合とない場合では手続きの流れが大きく異なります。遺言書があることで故人の意思を尊重できる反面、内容や形式に不備があると無効になるケースもあります。また、相続人全員が納得できる形で手続きを進めるためには、法律上の正しい知識が欠かせません。
本記事では、遺言書がある場合の相続手続きの流れや注意点と併せて、有効な遺言書の条件などをわかりやすく解説します。
遺言書がある場合の相続
大切な人が亡くなられた際の相続手続きでは、遺言書の有無によって、進め方や必要な書類が大きく変わります。遺言書がある場合は、被相続人の意思が最優先されます。
そもそも遺言書とは、被相続人が自分の財産をどのように分けたいかを明確に残すための書類です。法律に則り、正式な遺言書として有効性が認められるよう作成されていれば、相続手続きにおいて最も優先されます。「長男に自宅を相続させる」「次男に預金を相続させる」など、具体的な内容が書かれていれば、遺言書の内容に従って財産が分配されます。
遺言書は被相続人の最終的な意思を形にする重要な手段であると同時に、相続に関するトラブルを未然に防ぐ効果もあります。
遺産が多かったり、相続が複雑だったりなどで遺産の分け方に迷いや争いが生じやすい家庭ほど、遺言書の存在は大きな意味を持つことになるでしょう。
遺言書がある場合とない場合の違い
遺言書があるかどうかによって、相続の流れや関係者の負担は大きく異なります。遺言書がある場合とない場合の違いを表にして解説します。
| 項目 | 遺言書がある場合 | 遺言書がない場合 |
| 遺産の分け方 | 遺言書の内容に従う | 相続人全員で協議する |
| 協議の必要性 | 遺言書が優先されるため不要 | 合意のうえで必要 |
| 検認の必要性 | 自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は必要、公正証書遺言の場合は不要 | ー |
| 相続を主導する人 | 指定がある場合は遺言執行者 | 相続人全員 |
遺言書がある場合は被相続人の意思が明確です。そのため、相続人同士の意見の食い違いを防ぎやすいのが最大のメリットです。
その一方で、遺言書がない場合は、どのように相続するのか相続人全員の合意が必要になります。そのため話し合いが難航しやすく、感情的なトラブルに発展するケースも少なくありません。
遺言書が優先される理由とは
民法では、法定相続分よりも遺言書の内容が優先されると定められています。通常であれば配偶者と子どもが法定相続分に基づいた割合で財産を相続します。しかし、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と明記されていれば、その内容が優先されます。
しかし、遺言書があったとしても他の相続人の権利を完全に排除することはできません。これは、民法で定められた遺留分という制度により、相続人には最低限の取り分が保障されているからです。
遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求により法的に自分の権利を取り戻せます。そのため、遺言書があればすべて思い通りに相続できるというわけではなく、法的なバランスを保った範囲内で効力を持つということを理解しておきましょう。
遺言執行者の役割とは
遺言書がある相続では、実際に手続きを進める際に遺言執行者の存在が重要になります。遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために、相続財産の名義変更や分配などをする人です。遺言書にあらかじめ指定されている場合は、その人が中心となって手続きを進めます。指定がない場合は、誰が遺言執行者になるか相続人の話し合いで決めるか、家庭裁判所に申し立てて選任してもらう必要があります。
司法書士や弁護士などの専門家が遺言執行者を務めるケースも多く、法的な知識が必要な不動産登記や銀行口座の手続きもスムーズに進められるメリットがあります。相続人は遺言書の内容に従って財産を受け取る立場です。ただし、その内容に不満がある場合は、遺留分侵害額請求などの法的な手段を通じて対応が必要になります。
遺言書は3種類ある
遺言書には大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれ作成方法や手続きの流れが異なり、相続手続きにも大きく影響します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人が全文・日付・氏名を自書し、押印することで成立する最も一般的な遺言書です。費用をかけずに手軽に作成できるメリットがある反面、形式不備があると無効になるリスクがあります。
また、封印されたまま自宅などで保管されるケースが多く、相続が開始されると家庭裁判所での検認が必要になります。
ただし、2020年から始まった法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用していると、家庭裁判所の検認手続きは不要となり、保管されている遺言書を安全に取り扱えます。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が内容を確認しながら作成する遺言書です。公正証書遺言書の場合、遺言書の原本が公証役場で保管されます。そのため、紛失や改ざんの心配がなく、最も確実で法的効力が強い遺言書といえます。
家庭裁判所での検認が不要で、相続手続きをスムーズに進められるのが特徴です。費用は数万円〜数十万円かかるものの、後々のトラブル防止に非常に有効な方法といえます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を秘密にしたまま公証役場で遺言書が確かに存在することを証明してもらう形式の遺言書です。本人が署名・押印したうえで封をして提出します。
秘密証書遺言は遺言内容を他人に知られたくない場合に適しています。ただし、家庭裁判所での検認が必要であり、利用件数が少ないのが実態です。
遺言書を開封する前の注意点
遺言書にはいくつかの形式があり、それぞれで取り扱いや法的効力が異なります。遺言書を見つけた際、開封前に注意すべきポイントを詳しく解説します。
遺言書の開封前にやってはいけないこと
自筆証書遺言や秘密証書遺言を見つけたとき、絶対にその場で開封してはいけません。
民法第1004条において、「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。」と定められています。
法律違反があると、5万円以下の過料が科されるケースがあります。つまり、遺言書を見つけたらまずは家庭裁判所に検認の申立てをし、正式な手続きの中で開封する必要があります。
勝手に開封してしまった場合でも、遺言書の内容そのものが無効になることはありません。ただし、相続人間の信頼を損ねて後の手続きでトラブルに発展するリスクがあります。
検認手続きの流れ
家庭裁判所で行われる検認とは、遺言書の存在と内容を公的に確認し、改ざんや隠匿を防ぐための手続きです。検認は遺言の有効性を判断するものではなく、この状態で遺言が存在していたということを証明するための確認です。
検認手続きの主な流れは以下です。
- 家庭裁判所に検認の申立書を提出する
- 相続人全員に通知が送られる
- 指定された日に遺言書を開封し、家庭裁判所で内容を確認する
- 検認済証明書が交付される
検認済証明書が発行されることで、はじめて遺言書に基づく名義変更などの正式な相続手続きができるようになります。
遺言書を見つけた取るべき行動
遺言書を発見したら、冷静に次の手順に沿って行動しましょう。
- 封印されている場合は開封せず保管する
- 家庭裁判所に検認を申立てる
- 検認が終わるまで、遺言書の写しを取らない・内容を漏らさない
特に自宅で自筆証書遺言を保管している場合は、家族間での感情的なトラブルが起きやすくなります。そのため、冷静に法的手順を踏むことが重要です。不安がある場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談しながら、適切な対応をしましょう。
遺言書がある場合の相続手続きの流れ
遺言書がある場合の相続手続きは、遺言の種類によって多少異なります。しかし、基本的な流れは共通しています。遺言書がある場合、発見から名義変更、税金の申告まで、段階を追って進めることが大切です。
ここからは、実際の相続で多い手続きの流れをわかりやすく整理します。
遺言書がある場合、保管場所を確認する
相続が発生したら、まずは遺言書の有無を確認します。
自宅で保管されている場合、金庫、引き出し、仏壇などに保管されていることが多いです。自宅以外に、法務局や公証役場で保管されている場合もあります。公的な場所で保管されている場合、検索が可能です。
自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれの検索場所は下記です。
自筆証書遺言:全国の法務局で自筆証書遺言書保管制度の検索可能
公正証書遺言:公証役場の公正証書遺言検索システムより確認可能
仮に遺言書が複数見つかった場合は、日付が最も新しいものが有効になります。ただし、古い遺言との内容が矛盾している場合や改ざんが疑われる場合は、家庭裁判所での判断が必要になります。
遺言執行者による手続き開始
遺言書に遺言執行者が指定されている場合、その人が中心となって相続手続きを進めます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な財産管理・名義変更・遺産分配などをする権限を持ちます。
遺言執行者が指定されていない場合は、相続人全員の合意で決定するか、家庭裁判所に選任を申し立てます。司法書士や弁護士などの専門家を遺言執行者に選任すれば、法律や登記の手続きもスムーズに進められます。
財産の調査と名義変更手続き
遺言の内容を確認した後に、財産の内容を正確に把握することが重要です。預貯金・不動産・株式・生命保険などを一覧化し、それぞれの名義変更を行います。
銀行口座 :遺言書・検認済証明書・戸籍書類を提出して名義変更
不動産 :遺言書の内容に基づいて「相続登記」を申請
株式や証券:証券会社にて相続手続きの申請
中でも不動産の相続登記は特に注意が必要です。2024年4月からは、不動産の相続登記が義務化されており、相続開始を知った日から3年以内に登記する必要があります。期限を過ぎると10万円以下の過料が科されるケースもあるため、早めの着手をおすすめします。
相続税の申告と納付
相続手続きの最終ステップとして、相続税の申告・納付をする必要があります。相続税の申告は、相続が開始したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。遺言書があっても、税務上の計算は別途必要となり、遺言書の内容に関係なく課税対象となるケースがあります。
相続税の申告には、財産の評価額、債務控除、基礎控除額などの計算が必要で、複雑になりがちです。多くのケースでは、税理士などの専門家に依頼して正確な申告を行うのが一般的です。
遺言書がある場合の相続は検認したうえで正しく進める
遺言書がある場合、被相続人の意思を尊重して相続を進めることが原則です。ただし、自筆証書遺言や秘密証書遺言は家庭裁判所での検認が必要であり、開封の方法を誤ってしまうと過料が科されるケースもあります。
また、不動産の相続登記や相続税の申告など、期限のある手続きにも注意が必要です。手続き後の不安や相談については、あんしん祭典のアフターフォローサービスを活用するのがおすすめです。相続の流れを一から丁寧にサポートしてくれるため、初めての方でも安心して進められます。


