簡単な遺言書の書き方を遺言書の概要から解説します。3種類の方式の違いや自筆証書遺言の法的要件と書き方のポイント、使える言い回しや付言事項などを例文とともにご紹介し、遺留分・遺言書保管制度まで網羅。これから遺言書を書く方が遺言書の基本を学べる記事です。
「自分亡きあとに遺産で家族に迷惑を掛けられない」「相続に関してだけでなく感謝の気持ちも伝えたい」そう思っても「遺言書 = 難しそう」と感じる人は少なくありません。
自筆証書遺言なら、専門知識がなくても紙とペンさえあれば今すぐに作成できます。本記事では、自筆証書遺言の書き方やポイントについて、例文を提示しながら解説します。
さらに相続人以外への遺贈や寄付、負担(条件)付き遺贈、2020年にスタートした遺言書の法務局保管制度もご紹介します。
遺言書とは?
遺言書とは、自分の死後に財産や権利関係をどのように処理するかを示す文書で、民法に基づいた法的な指示書として作成します。なお遺言者を作成したとしても生存中はいつでも撤回や変更ができ、最新版だけが効力を有するのが原則です。
遺言書の効力は遺言者の死亡と同時に発生し、原則として法定相続よりも優先して採用されます。そのため、遺言書を作成しておくことで遺産の配分方法に被相続人の意思を色濃く反映させられます。
遺言書の形式は3つある
遺言書には以下の3つの形式があります。
いずれの方式でも遺留分(法定相続人に最低限保証される法定取り分)を侵害しない配慮と厳格な形式要件の遵守が欠かせないため、遺言書の内容は専門家のチェックを受けておくと安心です。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、全文・日付・氏名の全てを本人が自書して印鑑を押印する最も手軽な遺言の作成方式です。
自筆証書遺言は遺言者が自書した最期の手紙ですが、親族が勝手に開けてしまうと遺言の効力が無効になるため、開封前に家庭裁判所で「検認」という手続きを受けなくてはなりません。違反すると5万円以下の過料を科されることがあり、他の親族から偽造を疑われる火種にもなりかねません。
自筆証書遺言は、死後に見つからない・紛失や消失・汚損や破損で判読できない・改ざんで内容が変わるなどの保管問題がありました。
しかし、2020年(令和2年)7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管できる制度がはじまったため、自筆証書遺言の手軽さに安全性が加わり一層使いやすくなりました。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が遺言者から遺言内容を聴取して筆記または立会人2名の原案チェックのうえで、公正証書(公文書)として認証する遺言の作成方式です。
作成後に遺言者や相続人が正本と副本を持ち帰り、原本は役場内で半永久的に保管するため、偽造や紛失リスクはありません。また公証人が民法に沿って監修するので無効になるリスクはなく、遺言者死亡後の家庭裁判所の検認も不要です。
腕に障害があって署名ができない場合は代筆ができ、遺言者が動けない場合は公証人が出張します。ただし、遺産の価額に応じた公証人手数料が数万円かかり、他にも原案の作成や出張の日当と交通費、訂正のための再作成など費用負担が大きくなります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言内容を誰にも見せずに存在だけを公証人に証明してもらう方式です。
遺言者が自ら文書を作成(パソコン作成可)し、署名押印して封入した封筒の継目にも押印します。それを公証役場へ持ち込んで公証人と証人2名の面前で「これは私の遺言書です」と口述し、公証人が日付・遺言者氏名・証人氏名を封筒に付記・署名すれば成立します。
公正証書遺言と異なるのは、公証人も証人も遺言内容を読まないまま手続が終わる点です。また遺言書の原本は公証役場に保管されず遺言者が持ち帰ります。
自筆証書遺言の法的要件
自筆証書遺言の有効要件として民法968条には「遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印すること」と規定されています。
自書とは自らの手で書くことで、日付は「令和7年8月9日」のように誰が見てもその日を確実に特定できる形式にします。どれかひとつでも欠けると遺言書全部が無効になるため注意が必要です。
遺言書本文は自書が原則ですが、2019年1月の民法改正で本文以外に限りパソコン等の利用が認められました。
たくさんの記述が必要な「不動産の登記情報」や「預貯金口座の一覧」などの財産目録をパソコンで作成、もしくは通帳コピーや登記事項証明書を添付しても有効です。資産リストを手書きする手間がなくなり、転記間違いの防止にもつながります。
なお、押印する印鑑は実印と特定していないため認め印でも問題ありませんが、ほかの相続書類や登記書類では実印が使われるため、実務上は遺言書にも実印の使用を推奨します。
自筆証書遺言書のポイント
自筆証書遺言書のポイントは、財産の把握・遺言能力の要件・遺言内容の訂正方法に注意しましょう。
財産の把握
不動産・預貯金・株式・保険・負債をリスト化、表計算ソフトなどで財産目録を作成してプリントし署名押印します。ただしパソコン作成が許されるのは財産目録のみです。
遺言書作成の第一歩は、価値があるもの(プラス財産)と借金や支払い義務(マイナス財産)の把握です。抜け漏れがあると相続人同士の不信を招きやすく、遺言そのものの信頼性が揺らぎます。
調査するものとしては、預貯金・不動産・証券や投資信託・生命保険や共済・骨董や美術品・暗号資産・売掛金・ローンなどがあります。
遺言能力の要件
遺言能力として、民法961条には年齢を満15歳以上と定められています。また、意思能力としては遺言内容を理解し判断できる精神状態が必要としています。
遺言時期としては意思能力が低下する前の作成が鉄則ですが、軽度認知症でも医師の診断書があれば有効性を補強でき、症状が進行した高齢者なら公正証書遺言や医師立ち会いなどでリスクヘッジすることも可能です。
遺言内容の訂正方法
遺言内容の訂正方法は、二重線 + 訂正印 + 欄外に「〇字削除〇字加入」と自筆します。
ただし、訂正箇所の読み間違いだけでなく訂正手順を誤ると全体が無効になるリスクがあるため、最初から書き直したほうがを起こさないので安全で確実だといえます。
遺言書の簡単な例文と記載方法
遺言書の内容や記載方法を、例文を添えて解説します。
全財産を夫(妻)に相続させる
遺産を「誰に」「どれだけ」相続させるのかが明確に分かるように書きます。
<例文>

引用:【遺言書の作成例(基本的な文例)】|自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)|函館地方法務局
全財産を内縁の夫(妻)に遺贈する
内縁関係者は法定相続人でないため「相続させる」ではなく「遺贈する」を使います。
<例文>

引用:⑦事実婚の相手に財産を譲る場合|自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)|函館地方法務局
付言事項を書き添えた遺言書
遺言書における「付言事項」は、法的効力は持たないものの遺言者の意思や感謝の気持ちなどを伝えるために遺言に添えるメッセージです。
付言は、相続人や家族に対して遺言者の思いや希望を伝えることが目的であって具体的な行動の指示はありませんが、遺産配分の意図を理解する手助けになる重要な働きをもっています。
例えば「次男に多くの財産を渡したのは、長年実家で一緒に暮らし会社勤めの傍らで田畑や山林の管理に勤しみ、晩年には四肢が弱った私の身の回りの介護に対して感謝の気持ちからです」などと書きます。これにより、長男・次男間で遺産の分配方法に納得しやすくなるかもしれません。
相続人以外に遺贈する場合
誰にどの財産を相続させるのか、疑問の余地がないように明確に記載指定します。
財産の特定のために記載することが多い場合には、通帳番号が載った通帳のコピーや不動産の地番を参照できる登記事項証明書などを財産目録として添付するとよいでしょう。
<例文>

引用:⑧孫に財産を譲る場合(孫が代襲相続人でない場合)|自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)|函館地方法務局
<例文>

引用:⑨団体に財産を寄付する場合|自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)|函館地方法務局
負担(条件)付きの遺言書
息子へ自宅を相続させるので自分の妻(息子の母)の面倒を見てほしいという願いも遺言書に反映させられます。
<例文>
私は長男 〇〇太郎(昭和50年5月5日生)に、次の負担を付して自宅(所在:東京都〇〇)を遺贈する。長男 〇〇太郎は前条の財産を相続することの負担として、遺言者の妻 〇〇花子(昭和20年2月2日生)が死亡するまで同人と同居し、その生活費や医療費等を負担し、身辺の世話をしなければならない。 |
※遺言内容(妻の扶養)を履行しない場合は遺贈取消しも可能と明記すれば、履行を促す効果が高くなります。
(まとめ)簡単に遺言書を書くなら自筆証書遺言で
自筆証書遺言は「紙とペン」さえあれば遺言者単独で好きなときに作成ができます。
法定の要件は全文自署・日付・署名押印が必要ですが、財産目録に限ってはパソコンで作成が可能です。
財産を誰にどれだけ渡すのかは遺言者の自由ですが、遺留分に配慮しながら早いうちに書いて厳重に保管しましょう。財産状況や気持ちが変わることもあるため、遺言書は定期的に内容を見直すことをお勧めします。